映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」は作品自体は戦争映画で
ありながら、戦争シーンが殆ど出てこない映画で、政治的な駆け引きとチャーチルの
人物像の描き方にメインを置いています。
フィクションを交えてわかりやすいストーリーにしていますが、映画を見終わって感じた
感想は今も昔も政治家と一般民衆の間には溝があるのだな、ということでした。
また、この映画で日本人初のアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞の受賞者と
なった辻一弘さんのことも一躍有名になりました。
辻さんが担当した主演のゲイリー・オールドマンの特殊メイクは、ゲイリー・オールド
マンの素顔と見比べるとさすがアカデミー賞を受賞しただけはあると感心してしまいます。
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キャストの紹介
ウィンストン・チャーチル: ゲイリー・オールドマン
第2次世界大戦のイギリスで首相となり、イギリスを率いる
イギリス王ジョージ6世: ベン・メンデルソーン
イギリス国王
クレメンティーン・チャーチル: クリスティン・スコット・トーマス
ウィンストン・チャーチルの妻
エリザベス・ネル: リリー・ジェームズ
チャーチルの秘書
ネタバレ感想 1 今も昔も政治家と国民とでズレがあるようで、
第2次世界大戦を題材にした映画は多くありますし、あの戦争のおかげでナチスを敵役に
しておけば、問答無用に勧善懲悪ストーリーができてしまいます。
インディー・ジョーンズしかり、キャプテン・アメリカしかり。
しかも最終的にナチスを破っているので、どんなに困難な局面でも諦めずに抵抗し続ける
ことで、最後には勝利を掴むことがわかっているため、非常に便利なシチュエーションで
どんな映画のストーリーでも使える題材になっているような気がします。
この映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」でも描かれ方と
しては同じような考えが根底にあるような気がしました。
つまり、イギリス軍はダンケルクにおいて絶体絶命のピンチにあり、これが破られれば
被害が甚大な上、戦争継続が困難になるという状態で、ヒトラーに負けましたと頭を
下げれば、最悪の事態は避けられるという空気が内閣戦時執務室の中に充満しています。
そんな中でチャーチルが街の人の声を聞いて、国民は幸福を望んでいない、どんな困難に
も立ち向かってドイツとの戦争を継続するんだ、という世論の強さに戦争継続を決意する
というのが、それに当たると感じたのです。
戦争継続の決断を少女でさえ望んでいるというシーンをスクリーンでみせ、みている観客
は戦争の結果を知っていますので、その思いが正しいことも知っていて、だからこそ安心
して、何の疑問も持つことなく、受け入れてしまうのではないか、と思ったのです。
チャーチルが映画の最後の演説でいったように、バッキンガム宮殿の上にナチスの鉤十字
の旗がはためいていることを想像すれば、イギリス国民であれば、誰だってナチスに敗北
宣言をすることは許しがたい行為になり、生きて辱めを受けるよりも勇敢に死にたい、と
思うのは当然だと思います。
ただ、不公平なことは、その決断をするために、戦争を継続することで普段の生活で感じる
痛みが増えることは、きちんと説明されていない気がしたのです。
そんな状態ならほぼ100%の人が戦争継続を選ぶよなって。
で、そんなストーリーに慣れてしまうと、未来の結論がわからないのに、その時の雰囲気で
英雄的は行動を選択してしまいやすくなるのでは、と心配してしまったのです。
それはそれとして、内閣戦時執務室の中の今後の戦争についての考え方と、地下鉄の中で
の一般民衆との感じ方が違っていたという描写は興味深かったです。
例えば、「森友学園」問題についても国会の中や官僚の中の捉え方と国民目線との違いの
大きさが連日、ワイドショーなどで取り上げられています。
他にもこれまでにあった政治スキャンダルに関して、うやむやのまま、はっきりしたことが
わからないものばかりなことも、珍しくありません。
だからなのか、映画の中で内閣戦時執務室の中の雰囲気と国民の世論とがかけ離れたもの
であったことも、違和感を持つこともなく、すんなり受け入れられたのだろうか、と
考えてしまいました。
ネタバレ感想 2 映画と史実の違い
調べてみますと、いろいろと映画のストーリーと史実と違うことがわかりました。
まず、大きな違いとして、映画の中でイタリアのムッソリーニの仲介でヒトラーと
停戦交渉ができる事になっていましたが、実際にはそのようなことはありませんでした。
映画を見ていて不思議に思ったのですよね。あの局面で、停戦交渉を提案してくることに。
どう見てもドイツ側としては停戦をすることのメリットが思いつかないからです。
ダンケルクでイギリス軍を追い詰め、これを叩けば、イギリスに反撃の力はなくなります。
フランスもあの時点で、敗北は必然という状況でした。
イギリス側が泣きついてでも停戦したいと思っていたとしてもドイツが、ヒトラーが
それに乗ってくるとは思えないのです。
そんな状況でムッソリーニが仲介を買って出るのも本当かな、と思いました。
イギリスがどんなに望んでもヒトラーに断られることが目に見えており、恥をかくだけ
だからです。
で、史実ではそのような事実がないとこがわかって納得しました。
でも、驚いたのは、チャーチルが後の回想で、あの時期に停戦交渉が行われる可能性が
あったなら、それにのったかもしれない、と答えていたことです。
実際、チャーチルもそこまで追い詰められていたのでしょう。
続いてのフィクションはエリザベス・ネルに関してです。
チャーチルの個人秘書を大戦中に勤めていましたが、正確には1941年からで、映画の
舞台となった1940年にはまだチャーチルの秘書になっていませんでした。
さらに兄弟が一人と姉妹が一人います。兄弟がイギリス軍に従軍したという話は本当で
空軍パイロットとして参戦していました。
が、ダンケルクで戦死した、と映画内で言っていましたが、それはフィクションです。
さらに、チャーチルが地下鉄に乗って国民と話をしたシーンがありますが、これも
フィクション、つまり作り話でした。
またチャーチルの演説で国民が戦争継続へと機運を高めていったように描写されています
が、実際にはチャーチルの演説ではそれほど国民は戦争継続に動かなかったそうです。
とはいえ、チャーチルが主人公の映画で、チャーチルの演説で戦争を継続するように
世論がまとまったふうに演出しなければ、盛り上がりに欠ける映画になったでしょうね。
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