アニメ「ダンジョン飯」で登場した水の魔物、ケルピー、クラーケン、人魚らですが、調べてみるいろんな地域の伝承が元ネタで、同じ体系の魔物でないことが分かりました。
近年ではゲームでもよく登場し、いろいろな他のモンスターの特徴と混ざり合ったため、ごっちゃになっている感もあります。
そこで、元ネタの伝承を調べてみましたので紹介していきたいと思います。
アニメ「ダンジョン飯」ケルピーとクラーケン、人魚の元ネタを解説!
水の魔物ととして登場したケルピー、クラーケン、人魚。
ケルピーは対峙された後、馬肉として解体され、クラーケンは巨大なイカとして食料とされています。
さらには、その大きさからクラーケンの体内に寄生していた寄生虫をウナギのように調理して食料としていました。
人魚は亜人種の魔物ということで、共食いを連想することからマルシルとチルチャックの大反対にあって、食料とはしていません。
しかし、「ダンジョン飯」の世界観では、人魚は卵からかえる魚の魔物として描かれており、厳密には亜人種ではないそうです。
エラ呼吸しているそうですが、それだと人魚のメスがどのように歌を歌っていたのかは謎です。
人魚が歌を歌うことについて、解説はありませんでした。
それでは個々の魔物の元ネタについてみていくことにしましょう。
ケルピーはスコットランドの伝承
ケルピーの故郷はスコットランドです。イギリスを形成しているグレートブリテン島の北部に位置するエリアで、英語圏の文化とゲール語圏のカルト文化が入り混じった地域でもあります。
湖や川が多く、そこで行方不明になった人々が、ケルピーにさらわれたのでは、という形で伝承が始まったのではないでしょうか。
川や湖に棲むということで淡水の魔物となります。
水であれば何でもいいわけでないようで、海水に生息するケルピーはオリジナルの伝承では存在しない様ですが、近年の作品、例えばディズニーアニメ映画の「アナと雪の女王2」に登場したケルピーは、海水、淡水、関係なく活動している姿が描かれていました。
オリジナルは白馬
オリジナルの伝承では、ケルピーの姿は完全な馬、それも白馬だそうです。
持ち主はいないもののなぜか馬具一式を身に着けており、その姿に安心した人間がケルピーに乗ると、水の底深くに連れ去って溺死させてしまうのでした。
一説には黒馬のケルピーが登場するものもあるとのことですが、「ダンジョン飯」のように尻尾が魚の尾のようになっているわけではないようです。
ちなみにケルピーとは英語名の呼び名で、ゲール語での名前は「エッヘ・ウーシュカ」と呼ばれています。
そしてこの呼び名の違いから、川に棲むのはケルピーで、湖に棲むのがゲール文化のエッヘ・ウーシュカである、と分けられることもあります。
ケルピーは人間を襲うモンスター?
ケルピーやエッヘ・ウーシュカによって水中に引き込まれたとされる児童や大人の犠牲者は、肝臓等の臓器が浮かび上がる以外は遺体があがらなかったそうで、食われたと伝聞されているところから、人間を襲う魔物として認識されていました。
一方で一説によれば、エッヘ・ウーシュカは女子供をとって食うことをしないとされています。
また、うっかり触ると離れられなくなり、指を切って逃げおおせた、といった話も伝わっています。
さらにケルピーには、人間の男性に化身して女性を誘い、狂暴化もする話が、特にスコットランドの西部地方で伝えられています。
しかしその髪に水草か砂が混じっていて正体を見破られるのが全体を通して共通したストーリーとなっています。
これによってケルピーのことに気づいた女性は、衣服の一部を切り離したり、前掛けなどを脱いですり抜けたりして逃げようと試みるという展開になるのでした。
この言い伝えから、ケルピーは人間に変化する能力も持ち合わせていると言えそうです。
さらにケルピーに関しての面白い伝承に、人間に捕まって荷役用の馬として橋や築城の石材運搬等の使役にあてられた話も残されいます。
しかし、ケルピーを使役した人物にはしっぺ返しにあっているのがテンプレの展開で、その後、
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・末代までたたられる
・娘を連れさらわれる
等の不幸に見舞われているのでした。
クラーケンは北欧の伝承
クラーケンは海の怪物としてとても知名度が高い魔物です。
ゲームだけでなく、「パイレーツオブカリビアン」などの映画でも登場する、複数の触手をもつ大型の軟体動物として描かれています。
きちんと調べる前の漠然とした知識で、クラーケンはギリシア神話に端を発する魔物だと勘違いしていました。
英雄ペルセウスがアンドロメダを救った際、倒された海獣がクラーケンとばかり思い込んでいましたが、実はあの海獣はクラーケンではなく、ケートスという名前であり、クラーケンの故郷はノルウェーだったことがのちに分かったのでした。
大型のタコやイカの怪物
クラーケンの登場はそれほど古く無かったという印象を受けました。
ノルウェー伝承でそれらしき物はありましたが、世界的に知れ渡ったのは1700年代中頃であったのです。
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中世より北欧に伝わる、島のように巨大な伝説上の怪物「ハーヴグーヴァ」
や
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近世ノルウェーで伝承されていた、多頭で有爪の海の怪物「クラーケン」
をもとに世界に紹介されましたが、その際、「ハーヴグーヴァ」が幻のクジラという異名を持っていたことに対し、クラーケンの紹介として巨大ダコの挿絵が添付されていたことから、2種の魔物が混同される原因になったそうです。
クラーケンが世界に知れ渡るにつれ、巨大ダコ、巨大イカというイメージは定着し、学者の中には「クラーケンはダイオウイカのことである」、と主張する者も現れました。
1981年のアメリカ特撮映画「タイタンの戦い」でクラーケンが登場しますが、上半身は人間型の胴体を持ち、下半身がタコのような触手を持つ姿をしていました。
この姿が大きなインパクトを与え、その後、クラーケンを表現する際には、タコのような触手は必ず付け加えられる条件となっていったのです。
ギリシア神話のケートスの混同
ちなみにペルセウスの冒険に出てくる海獣はケートスという名前で、クラーケンではありません。
クジラ座のもとになった海獣ですが、姿かたちはトドのような大きな体を持つ魔物でクラーケンのようなタコやイカをモデルとした姿ではありませんでした。
しかし、先述した映画「タイタンの戦い」により、ケートスよりもクラーケンの名前のほうが有名となってしまい、ケートスという名前はクラーケンと比べると、認知度は天地の差程も開いてしまったのです。
西洋と東洋で異なる人魚の姿
アニメ「ダンジョン飯」に登場する人魚ですが、オスとメスで明らかに形状が異なるようです。
オスは頭が魚っぽく、人間の手と胴体を持っています。
メスは上半身が女性、下半身が魚という、典型的な人魚姿でした。
面白いことに人魚の歴史を調べてみると、東洋と西洋でかなり大きな違いがありました。
一言でいえば、オスの姿が東洋の人魚、メスの姿が西洋の人魚、と言えます。
東洋の人魚
東洋の人魚のうち、日本の人魚ははっきり言って「人面魚」です。
顔だけ、または頭部だけが人間で、それ以外は魚、という姿に描かれているのでした。
江戸時代中期から後期にかけてヨーロッパの文化が入り込んできた影響で、西洋風の、上半身が人間で下半身が魚という人魚の絵画が描かれ始めています。
面白いことに日本書紀に記されているにほんで最初の人魚の記録は淡水に棲む物でしたが、それ以降はすべて海水に棲む人魚の記録しかありません。
一方で中国は、というとこれまた独特で、
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・ナマズに似た体にトカゲやイモリのような手足を持つタイプ
・海水に棲む4本脚を持つ人面魚
・細毛に覆われた猿のような姿で海中に棲むタイプ
・馬尾のような長髪で、手はあるが足はなく、鱗ではなく細かい毛が生えている海人
・日本の記録と同様の人面魚
といった人魚の記録が見つかっています。
西洋の人魚
ヨーロッパの人魚は、人魚と言えばと世界的に広く考えられている、上半身が人間で下半身が魚という姿のものが大半です。
伝承によっては多少の違いはあるようですが、基本的に裸で服は着ておらず、若い女性の上半身を持つ姿で描かれた絵画が多く残っています。
さらに言えば、金髪もしくは茶髪を持ち、櫛や鏡を持つ姿が一般的だそうです。
この櫛や鏡という小道具は、キリスト教の影響があると考えられ、古典時代では愛の女神ヴィーナスの持物として、「性的な快楽の誘い」を象徴するものとみられていました。
さらには、櫛や鏡にはキリスト教にとって、七つの大罪の一つである「虚栄心や自惚れ」の寓意とみなされていて、人魚を肯定的に捉えていなかったと考えられているのでした。
また、西洋の伝承の中で人魚が歌う歌を聞いて、その声に魅了され、水の中に引き込まれる、といった話もいくつかの地域で確認ができます。
この人魚の歌で聞いた人が惑わされ、命を失うという話は、ギリシア神話のセイレーンと混同して広まっていったものと考えられています。
セイレーンとの混同
ギリシア神話のセイレーンは、歌声で聞いた人を魅了し、近寄ってきたところを殺してしまうという魔物でした。
ギリシア神話の話に詳しくない人は、セイレーンがもともと、女性の頭を持った鳥の姿をした魔物であったことを知らないのではないでしょうか。
セイレーンというと人魚の姿を思い浮かべてしまうかもしれませんが、オリジナルの話では鳥の姿をした魔物だったのです。
セイレーンが人の頭部に鳥の姿をした魔物となった理由について、神話の中でいくつかの話が存在していました。
一つは、元は河の神でペルセポネーに仕えていたが、ペルセポネーがハーデースに誘拐された後に彼女を探すために自ら願って鳥の翼を得た、という話。
二つ目には、ヒュギーヌスでは誘拐を許したことをケレースに責められ、鳥に変えられたとされる話。
更には、誘拐を悲しんで恋愛をしようとしなかったためアプロディーテーの怒りを買い、鳥に変えられたとされる話もあるのだとか。
一方で、なぜ歌声で人を魅了しておびき寄せる能力があるのかは神話の中にも明記はありません。
ではなぜ、セイレーンの姿が人鳥から人魚に変化したのか、についての説ですが、諸説があります。
ギリシア語では羽根と鱗は同じ 言葉であり、またラテン語も羽根 pennis と鱗 pinnis はよく似ているのでした。
そこで下半身が羽根に覆われた姿から鱗に覆われた姿に変化したのではないかと考えられるという説です。
他には、古代において海岸の陸地を目印に航海していましたが、中世に羅針盤が発明されて沖合を遠くまで航海できるようになりました。
このことから、セイレーンのイメージが海岸の岩場の鳥から大海の魚へと変化したためと考えられている説もあります。
このようになぜセイレーンが人鳥の姿から人魚の姿になったのかは、はっきりとわかっていません。
中世以降にこの変化が一般庶民の間でも広まっていき、セイレーンも人魚の一種という考えも同時に世界に向けて発せられたのでした。
これ以降、セイレーンと人魚が区別される機会も少なくなっていくことになります。
まとめ
ケルピー、クラーケン、人魚の元ネタについて調べて紹介してきました。
ケルピーは淡水に棲むとされる、馬の姿をした魔物です。
その故郷はスコットランド。その地方を中心に人間を水の中に連れ去ってしまうという性格を持っているとされています。
クラーケンはノルウェーに伝わる海の怪物で、大ダコや大イカのような姿をしていると考えられていました。
学者によってはクラーケンの正体はダイオウイカである、と信じている人もいるそうです。
人魚に関してですが、東洋の人魚は「人魚姫」に登場するようなマーメイドの姿かたちをしていません
日本は西洋からの人魚の姿を見るまでは、まさに人面魚としかいえないような人魚が一般的でした。
同じく東洋の中国では、いろいろなタイプの人魚の記録があります
ナマズのような姿をして足を4本持つ人魚、猿や人の姿をしてその姿のまま、海中で生活を行っている人魚や人面魚など、姿かたちの違う人魚が伝承として記録されていました。
一方で西洋の人魚は、というと、いま世界で一番常識としてのスタイル、すなわち上半身が人で、下半身が女性というもので、ほぼ統一されていたようです。
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