映画「黒い司法 0%からの奇跡」はアメリカのアラバマ州で起こった実話の冤罪事件を題材にした作品です。
有名な小説「アラバマ物語」の作者が住んでいた小さな田舎町で起こった殺人事件。
その犯人として捕らえられた黒人が、ろくな捜査もされず、有罪となり死刑宣告されました。
そんな冤罪を主人公の新人弁護士、ブライアン・スティーブンソンが無実を証明するためにあきらめることなく活躍し、見事に無罪を勝ち取ります。
ところで映画ではあまり詳しく語られなかった殺人事件。どんなものであったか、気になりませんでしたか?
冤罪がでっち上げられたということは真犯人が存在するはずですが、それについても映画の中では明言はありませんでした。
今回はそんな殺人事件の詳細と真犯人に対する情報があるのかないのか、そこら辺を紹介していきたいと思います。
映画「黒い司法 0%からの奇跡」での殺人事件の詳細
まずは、映画「黒い司法 0%からの奇跡」でジョニーDことウォルター・マクミリアンが犯人に仕立て上げられた事件について、詳しく紹介していきたいと思います。
被害者の人物像
被害者はロンダ・モリソンという18歳の娘。
彼女は事件当時、短大に通っている学生で、事件現場となるクリーニング店にパートで働いていました。
人口7000人ほどの小さな田舎町ということもあり、みんながみんなのことを知っていて、そんな中でロンダは町中の人から好かれていた愛くるしい若者だったそうです。
体重は約55kgと平均的でしたが、年頃の女性によくあるように、彼女も自分の体重を気にしていました。
短大に進む前は白人しか入れない地元の私立高校に通っていました。
そのこともあり、知人に黒人は少なく、その知り合いもそれほどよく知っているわけではなかったようです。
彼女はディズニー童話を好んでいる夢見る少女のような一面があり、人間はみんながみんな、他の人にやさしいということを心の底から信じているような娘でした。
彼女はチャールズとバーサという両親の一人娘です。
チャールズは製紙工場、バーサは縫製工場で働いており、裕福というわけではありませんでしたが、生活に困るというレベルでもなく、家族はそれなりの生活を送っていました。
両親にとって彼女は人生のすべてという存在であり、娘が被害にあった後のショックは並大抵のものではなかったそうです。
事件発生前の目撃情報
事件が起こったのは1986年11月1日、土曜日の朝でした。
この日もいつも通り、ロンダは車でクリーニング店に出向き、9:05に店に到着して開店の準備をしています。
9:05から10:30の間に二人の目撃者が生存するロンダを確認しており、別段いつもと変わった様子はない、と証言していました。
そのうちの一人が、ロンダが銀行から降ろした釣銭用のお金をレジの中に収めているのを目撃した、と証言しています。
事件発生の状況
10:40ごろ、ジェリー・スー・デニングという夫人がクリーニング店を訪れます。
が、店の中には誰もおらず、呼んでも返事がありませんでした。
この時、デニング夫人は、中にお金が入ったままレジが開いていた、と証言しています。
11時ごろ、フローレンス・マーソン夫人とコイ・ステーシーが来店します。
3人は、全く姿を現さないロンダを不思議に思い、何か起こったのではと店の中の様子を見ることにしました。
3人の証言によると、彼らは店の北東の隅、衣服ラックの後ろに倒れているロンダを発見し、驚いてすぐに警察を呼んだそうです。
11:05ごろに地元警察が到着。
すぐに捜査を開始しました。
が、最初に現場に駆け付けた警官の一人がロンダの体に触れた際、「すでに冷たくなっている」とつぶやいたそうです。
死因
ロンダはうつぶせで床に倒れており、25口径の拳銃によって背後から撃たれたとみられています。
受けた銃弾は3発。
一つは右肩に、もう一つは背中の左側部分、そして最後の一つは上腕(どちらの腕かの情報なし)でした。
弾丸はすべて彼女の体を貫通せず、体の中から発見されています。
死因は銃による傷のための出血死だとみられていますが、その割には出血量はほとんどなかったと記録にはありました。
それ以外の傷として、首と額にかなり目立つ傷とあざがありました。
ロンダは打たれた直後、数分で意識を失ったとみられています。
が、即死ではなく、意識を失った後、10分から20分の間はまだ息をしていたとも考えられていました。
犯行現場で発見された手掛かりと遺留物
事件現場で発射された銃弾は全部で5発とみられています。
というのも、ロンダの遺体の近くに薬きょうが3つ、そしてトイレ近くにも薬きょうが2つ見つかっているからです。
3発がロンダに命中していたわけですので、残りの2発がどこに行ったのか、ですが、一つの弾は破片がロンダの遺体近くに、そして最後の一つはトイレの天井に銃痕の穴が見つかったので、そこに命中したと考えられていました。
その他の手がかりとして残されていたのは、トイレの床に落ちていたロンダのネックレスと、誰の髪の毛であるかは特定されていない髪の毛のついたレンガブロックです。
トイレの床にロンダのネックレスが落ちていたということで、ロンダはトイレで襲われたのではないか、とみられています。
またレンガブロックですが、トイレの壁に使用されているレンガの一部ではないか、と考えられていました。
犯行現場では採取できた指紋は一切ありませんでした。
レジの近くに一滴の血痕が発見されていますが、だれの血痕であるか、特定されていないようです。
また、状況写真を見ると、10:40にデニング夫人が見たと証言したレジの中にあったはずの紙幣がなくなっていることが分かります。
誰がいつ、持ち出したのかは分かっておらず、物取りの犯行である可能性は、このことから考えられていました。
疑われた犯行動機
ロンダの衣服は乱れ、ブラウスとズボンのボタンが外れていました。
そのため物取り以外の線として暴行目的の可能性が疑われました。
有名な「アラバマ物語」も黒人によって白人女性が暴行された、ということが物語において重要なキーワードになっているため、今回の事件もそのことを連想した人は多かったようです。
が、死体からも現場からもDNAが採取できるような体液は発見されなかったのが謎になっていて、暴行目的と断定することができていません。
また、現金が入っていたはずのレジから35ドルがなくなっていることも分かり、物取りの犯行も可能性の視野に入れて捜査が進められたのでした。
初動捜査のミス
しかし犯行が行われてから半年以上も、警察は容疑者を逮捕することはできませんでした。
というのも、人口7000人という田舎町で殺人はほとんど起こらない事件であり、警察はその捜査に慣れていなかったのです。
そのため、初動捜査でもミスをいくつも犯しており、それが、犯人特定をより困難なものにしていました。
現場に到着した地元警察は、殺人事件捜査のイロハである現場保全を全くしていませんでした。
しかも専門家の捜査官が到着する前に、被害者であるロンダの遺体を動かしていたのです。
現金がなくなったとされるレジも無数の指紋が付着しており、その結果、まともな指紋採取ができないほどであったそうです。
旅行でこの町を訪れていたラテン系の男性2名が容疑者として名前が浮上したものの、犯行への関与は否定され、警察は全く犯人がだれなのか、わからない状況となってしまいました。
そんな中で、新しく保安官として選任されていたトム・テイトは町の住人から早期犯人逮捕の圧力を受けるようになっていきます。
ジョニーDことウォルターがはめられて犯人に仕立て上げられた理由
基本的にはほとんど白人の住民からですが、警察はロンダ殺害の犯人逮捕ができないことで風当たりが強くなってきます。
自分たちのメンツをかけても何とか犯人を捕まえないといけない、ということで禁断の手法に出ることにしたのでした。
とはいえ、今まで表立っていないだけで、これまでも困ったときには常にこの方法を取ってきたのでしょう。
その証拠に映画の主人公であるブライアンは、ウォルターの無実を署名した後も、黒人囚人たちの冤罪を証明し続け、その数は140名にも上る数になっているのです。
話をロンダ殺人事件の話に戻すとして、その生贄として選ばれたのがジョニーDことウォルター・マクミリアンでした。
ウォルターが犯人として選ばれた理由は、警察サイドからはっきりと述べられていません。
ウォルターや彼の弁護士が考えるに、彼の息子の一人が白人の女性と結婚しており、彼自身も白人女性と不倫をしていたのが理由ではないか、と述べています。
ウォルターが白人女性と関係を持っていたことは、映画では述べられていませんでした。
が、この女性こそがウォルターが犯人であると証言したラルフ・メイヤーと関係のある人物だったのです。
この女性の名前はケレンといい、事件が起こるころにはウォルターは彼女との関係を終わらせたいと動いていました。
というのも、ケレンはラルフと知り合い、二人は違法薬物におぼれていったからです。
しかも二人は別の地域で女性を殺害した罪で逮捕されました。
警察は二人がロンダも殺害したのでは、と尋問をし、殺人での起訴をして重罪人として裁くと脅すことで、司法取引を持ち掛け、ラルフからウォルターがロンダを殺害したという証言を引き出します。
この下りは映画でもありましたので、事実をそのまま映画で使っていますが、実際にはラルフは、ウォルターが殺人に関与したことを証言した後に、ウォルターを含んだ複数の黒人と面通しをした際、どの人物がウォルターであるか、指し示すことができなかったそうです。
解決していない事件と真犯人に対する情報
その後の展開は映画の通り、いくつもの苦難がありましたが、ブライアンとウォルターは無実の判決を勝ち取ります。
その結果、ロンダを殺害した真犯人はほかにいる、ということなるのでした。
その後、捜査は今現在も続けられていますが、大きな進展はなく、迷宮入りしています。
唯一、新たな証言が見つかったのが、事件の前、ロンダを付け狙う白人男性が複数回、目撃されたことですが、それが誰であるのか、特定することは今の時点でもできいません。
殺人がほとんど起こることのない平和の田舎町で起こった事件で、捜査に当たった警察も殺人事件になれていないことが、初動捜査で大きなミスを招いてしまい、冤罪を作り上げたことも重なって、未解決事件となってしまったのでした。
まとめ
映画「黒い司法 0%からの奇跡」で冤罪になったジョニーDことウォルター。
彼が犯人と疑われた事件の詳細を紹介していきましたが、なんとも初動捜査のミスが悔やまれます。
そして自分たちが犯した間違いを、安易に黒人に擦り付けて冤罪を作り上げてきた風土が、より事件解決に対する情熱や責務を下げてきたのではないかと思えて仕方がありません。
それは警察もそうですが、臭いものが出てきたら黒人をいけにえにして蓋をし、見て見ぬふりをしてきた地域社会にも問題があると思います。
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