ディズニーの実写版映画「リトルマーメイド」を視聴してきました。
公開前から主人公のアリエルを演じる女優が黒人であるということでとんでもないほど盛り上がっていた作品です。
実際に視聴した結果を言えば、「これはこれであり」という感想でした。
今、賛否両論の意見が飛び交っているポリコレ問題について、ごく自然にクリアーさせるには、という設定変更をものの見事に成功させたと感じたからです。
また、移民の国であるアメリカならではの隠されたメッセージという含みを持たせているのでは、とも考察した次第です。
ただこれは、移民の国以外では受け入れられにくい上に、気づいてすらもらえないのではないか、と思いました。
映画実写版リトルマーメイドのネタバレ感想
ディズニーの実写版映画「リトルマーメイド」
ストーリーはディズニーアニメのものとほとんど変わっていませんが、設定変更が随所に見られました。
そのことは後に詳しく言及するとして、まず良かった点をいくつか挙げていきたいと思います。
実写版リトルマーメイドの良かった点
まずは何といってもアリエルを演じたハリー・ベイルの圧倒的な歌唱力。
黒人だ何だという雑音をあっという間に頭の中から消し去ってしまうほどの素晴らしさでした。
続いてポリコレ問題を気にしなくて済む設定変更。
黒人の女優が主人公を演じているということが不自然ではない世界観を作り上げています。
まさにおとぎ話の中の、人間の醜さが全くないようなお花畑世界という感じ。
子連れでも安心して見ることのできる内容でした。
海の中のきらびやかさや、島の生活の楽しそうな様子も好印象でした。
特に熱帯魚や色とりどりの海藻などは、北欧の冷たい海にはありえないため、設定を変更したことで成功した部分だと思います。
ちょっとこれは、と不満が残った部分
そんなかなり良い印象の実写版「リトルマーメイド」でしたが、不満が残った部分もありました。
海の中ということもあり、薄暗い洞窟などのシーンがあるのですが、そのような場面では黒人肌のアリエルが暗さの中に同化しやすい為でしょう、かなり見にくく感じました。
特にアースラのシーンは、彼女も黒を基調としたキャラクターですので、アースラの住処の描写など、とても分かりにくかったのが残念でした。
アースラと言えば、ラストで巨大化してアリエルとエリック王子に襲い掛かるシーンが今一つだと感じました。
CGで作り出されたアースラが、作り物という感じがしてしまってアクションにのめりこめなかったのです。
そういう意味では、アクション自体、手に汗握る、という感じではなかったので、せっかく実写にした意味がないように感じられました。
同じディズニーの実写版でいえば、「美女と野獣」の決闘シーンや「アラジン」のラスト、巨大化したイアーゴから逃げるアラジンとジャスミンのアクションシーンと比べると、見劣りがしてしまいます。
最後にこれは個人的な好みの部類に入るのでしょうが、アースラにとどめを刺すために浮上した難破船の操作をアリエルが行う変更はいらないと感じました。
船を使う以上、やはり人間であるエリックにやらせてほしかったです。
一緒に見に行った妻は、アリエルが船を操作するという変更に、好意的でしたが。
黒人アリエルはひどい?
今回の「リトルマーメイド」
アリエルが黒人である、ということが取り立てて話題になっていましたが、彼女の6人姉妹も白人ばかりではありませんでした。
アジア系もいれば黒人もおり、同じ白人でもヒスパニック系やロシアもしくは北欧系のような外見の姉妹も存在していました。
さらに言えば、トリトン王を演じた俳優はスペインの方で、白人とはいえ、ヒスパニック系。
オリジナルの北欧白人とは異なります。
オリジナルと言えば、すでに指摘されていることですが、アンデルセン原作の人魚姫は恋した王子と一緒になれず、失恋の上、海の泡となってしまうという悲しい結末でした。
僕が子供のころに見た絵本では、王子の愛を得ることができず、朝になれば、泡となって消えるという前夜に、彼女の姉妹全員が自慢の長髪を海の魔女に渡すことで、短剣を手に入れて、人魚姫に渡すというくだりがありました。
この探検で王子を殺せば、また人魚に戻れるというのです。
しかし人魚姫は愛し返してくれなかった王子をまだ愛しており、殺すことはできず、泡となって消えることを選んだ、という結末が描かれていたのです。
そんな悲哀の話を、ディズニーでは声は取り戻すし、アースラを倒すことでトリトン王には認められるし、エリックと結婚することもできる、めでたしめでたしの話へと変えてしまっています。
ある意味、アリエルが白人姿か黒人姿かという問題よりも、この変更のほうが、原作者に対してどうなのか、と思ってしまうのでした。
つまりディズニーがアニメ-ションとして作成したことで、かわいそうな話からハッピーエンドの話へ、という変更が受け入れられたわけです。
今回実写版を作成するにあたって、いろんな人種の人魚がいる、という設定に変更しただけだと考えれば、それほど目くじらを立てる必要はないのではないでしょうか。
特に、黒人のアリエルが歩き回っていてもおかしくない設定に変更されているわけですから。
移民の国ならではのメッセージ
実写版「リトルマーメイド」を視聴して、アメリカという移民で出来上がった国ならではの理想がメッセージとして根底にあるような気がしました。
それは、新しく加わった人の価値観を認め、尊重する多様性の世界、です。
アリエルが足を得て人間となり、エリックのもとにやってきます。
そしてエリックに対して、彼が思いもしなかったような行動をして、驚かせたり楽しませたりしていました。
つまり、新しくコミュニティに入ってきた人の持つ、異なった文化や価値観を優しく受け入れ、自分たちの文化の中に取り込んで、変化を許容する、という姿です。
移民がやってきてくれないと国としてやっていけない、近い将来人口減や高齢者社会になってしまう、という世界において、移民としてやってきた人たちが持っている文化や価値観が頭ごなしに否定されるのでは、移民先として選んでもらえないでしょう。
そうではない世界だと、こんなに素敵でこんなにハッピーに暮らせるのですよ、というメッセージを、アリエルを受け入れる事で発進していると感じたのでした。
とくにアメリカはトランプが大統領に就任してから、分断が問題になっており、移民や難民に対する目が厳しいものになりました。
ディズニーとしては、分断ではなく包容力、差別ではなく認めることが大切である、と映画を通して言いたかったのではないでしょうか。
実写版という名のリメイク
実写版「リトルマーメイド」は、実写版ということで「リトルマーメイド」の話を近年大きな問題として取り上げられていたポリコレに沿うストーリーにリメイクした、と言っていいでしょう。
だからこそ、黒人のアリエルが登場し、黒人が主人公であることが不自然にならないように舞台を北欧からカリブ海に変更したのです。
島に住む人々ですら、ラテン系の白人だけでなく、黒人が登場していました。
さらにエリックの継母の女王が登場しますが、彼女は黒人だったのです。
黒人が女王なんて、ヨーロッパの歴史上、あり得ない事ですが、カリブ海の国ならばあり得る、と思えてしまいます。
この点なんかもポリコレの影響だと思いますし、それを表現するために、設定を変更して不自然ではないようにした、リメイク映画作品だと感じたのでした。
まとめ
実写版「リトルマーメイド」は実写版の「ライオンキング」や「ムーラン」ほどひどいモノではありませんでした。
黒人の女優がアリエルを演じるということで、賛否両論が巻き起こりましたが、実際に映画館で聞けた、彼女の歌声のすばらしさに、そのような雑音はどうでもよくなったほどです。
また、黒人のアリエルが歩き回って不自然ではないように、舞台もカリブ海に移されました。
彼女以外に黒人の登場人物が画面上に現れますので、おかしいと感じる部分はほとんどありませんでした。
アリエルは全く新しい価値観を持って城や城下町の人々の中に飛び込んできたわけですが、その異なった価値観をもとに行動しても、他の人々が肯定的に受け入れていました。
ここから、移民の国でありながら、近年、分断が問題化したアメリカという国に対し、ディズニーが多様性の許容というメッセージを、新しくリメイクした「リトルマーメイド」という作品で伝えたがっているように感じたのでした。
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