ブルース・リーの師で世界に詠春拳を広める基礎を作ったイップマンの生涯を描いている
映画の第一弾です。
制作された年代の影響からか反日的な描写があるのは、日本人として見ていてちょっと、
と思う場面もありますが、ドニー・イェンの素晴らしいカンフーアクションに詠春拳を
習ってみたいという気にさせてくれる映画でした。
予告動画はこちら
キャストの紹介
イップ・マン: ドニー・イェン
詠春拳の達人でブルース・リーの師匠。
ウィンシン: リン・ホン
イップ・マンの妻。
三浦: 池内・博之
仏山市を占領している日本軍の司令官。空手の使い手。
リー・チウ: ラム・カートン
日本軍の通訳を勤めている。戦争前は警官。
ネタバレあらすじ
1935年、広東省仏山市には数多くの武道場があって、武術の街として有名でした。
その中でも武道場は持っていないが詠春拳のイップマンが仏山最強として知られ、他の流派の
拳士が挑んでいっても軽く返り討ちにしてしまうのでした。
ある時、中国北部よりカムと名乗る武術家が佛山に乗り込んで道場破りを始めます。戦って
無敗のカムはこの地で自身の流派の武道場を作ると意気込んでいるのでした。
そしてイップマンの自宅に乗り込んでいって無理やり手合わせを強いるのですが、反対に
コテンパンにやられてしまいます。
時は移り1938年10月、日中戦争で仏山市は日本軍に占領され、イップマンの屋敷も司令部と
して接収させられてしまいます。仕方なくあばら家に引っ越し、その日の食事にまで事欠く
生活を送ることになったイップマンは土方仕事についてなんとか生活をしているのでした。
現場の責任者は昔武術を習っていたこともあり、そこで働く人々は武道場主やその生徒達が
多く、久々の再会に喜んでいましたが、そこに日本軍兵士が現れ、兵士の空手組手の相手に
腕に覚えのある者たちを募って連れていくのでした。
勝てばコメ一袋を貰えるということで、やる気満々の中国人が多い中、中には日本人を
ぶちのめすために来ている者もいました。
そんな一人が三浦将軍が3人と組手をすると宣言した際に相手をします。が、あまりの実力
差に他の2人は早々に降参します。何度も打ちのめされても向かっていくため、最後には
三浦の蹴りで、命を落としてしまうのでした。
翌日になって姿が見えないことに疑問を持ったイップマンは、また組手相手を探しに来た
日本兵士とともに道場に乗り込み、殺されたことを知るのでした。しかも3人と組手をして
負けた知り合いの元道場主が目の前で射殺されるのを目撃し、10人と組手をすると宣言します。
イップマンは相手した10人を全員戦闘不能なまでに叩きのめし、名前を聞く三浦将軍に
「一人の中国人だ」とだけ答えて去っていくのでした。
生活の苦しくなった者の中には盗賊となって同胞の中国人から金を奪い取る輩もでてきます。
かつてイップマンに叩きのめされたカムもその一人で、イップマンの友人で綿工場の経営者
から金を奪い取ろうと暴行を加える。
イップマンが助けのために工場についたときには盗賊たちの姿はありませんでした。
少しの期間待って金ができてから取りに来るというのです。
そこで、護身のために工場の工員全員がイップマンに詠春拳を教えてもらうことになり、
占領下の時代に拳法しか知らない自分が家族をろくに養えず、役立たずな存在なのだと
落ち込んでいたイップマンは行員に詠春拳を教えることによって自身の存在意義を見出して
いくのでした。
盗賊が再び襲撃してきましたが、工員は全員、詠春拳で反撃。イップマンの加勢も加わり、
見事、盗賊を追い返します。
一方で三浦将軍はイップマンとの手合わせを強く望み、兵士をイップマンの住居への差し
向けます。兵士の一人がイップマンの息子に面白半分で銃を向け、ウィンシンを見て、その
美しさに食指を動かしたため、兵士全員を気絶させてしまうのでした。
その場は逃げますが、綿工場がイップマンと関わりがあること知った日本軍は工場を襲って
イップマンが現れるように仕向けます。自分が日本軍の目的だと知ったイップマンは危険を
承知で現れて捕まり、日本軍兵士に中国拳法を教えれば命は助けるという三浦将軍の申し出を
断ります。どうしても知りたいのであれば手合わせを通じて見せてやると提案し、二人の間で
決闘がなされるのでした。
三浦の空手の腕前に一時は押されてしまうイップマンですが、無事に逆転勝ちを収め、
それを見ていた中国人観衆は大喜び。しかし日本兵士に射撃され、傷を追ってしまいます。
イップマンが撃たれたことにより、大混乱になり、観衆は日本兵士に丸腰のまま襲い
かかります。その混乱の中、なんとかその場を脱出したイップマンは香港へ逃亡するのでした。
イップマンの強さはハンパない。ちょっと非現実的なほど。
ドニー・イェン演じるイップマン。その爽やかな容姿からはそんなに強そうに見えませんが、
劇中のイップマンの強さは格別として描かれています。
武術の街として有名は仏山市は、いろんな流派の道場がたくさんあるのですが、北派武術家の
カムがやって来ると軒並みこてんぱんにやられてしまいます。その力量の差はかなりひどい
描かれ方。
まぁ、映画としてわかりやすくていいんですけど。そこまで弱くてよく武術教えているね、
ってレベルです。
そのうちに一人は映画の冒頭でイップマンとも試合をしていますが、寸止めだったとはいえ、
あそこまで一方的にやられるかな、と思ってしまったわけですが、もちろんその人もカムに
こてんぱんにやられてしまいます。
で、カムとイップマンの手合わせはカムがボコられるのですけど。一発もまともに当てる
ことができないで、挙句の果てに武器まで持ち出した上でやられてしまう、情けなさ。
映画の表現手法として、視聴者がイップマンに好感を持つように仕向けているがゆえの、
極端な描き方をしているだけなのでしょうけど、
イップマンも一方的にやっつけてしまうけど、寸止めで、しかも余人を交えずに結果が
他人に漏れないようにして、相手の立場を思いやる礼儀というか情けというか、人として
立派な振る舞いをしているのに対し、カムに強いものの、傍若無人な振る舞いさせることに
よって、イップマンがカムを一方的に押していくことで、視聴者は溜飲をさげてスッキリ
することができる、というわけでしょう。
一方で日本兵士との戦闘では全くの手加減なしの組手で、10人対一人でもことごとく戦闘
不能にしていきます。
本気になればここまで強いんですよ、というわけでしょうが、香港や中国での上映では
視聴者の反応はよかったかもしれません。でも、日本人である僕が見ると、ちょっとやり過ぎ
じゃないかな、と感じてしまいました。
戦争中で、日本側が中国を侵略し、住居を接収し、食料を徴収し、理不尽に命を奪ったと
という背景はわかりますが。
実際に史実としてイップマンは日本人には葉問派詠春拳を教えてはならない、と遺言した
と言われているくらい日本人を嫌っていたそうですので、納得はできます。
しかも映画内の日本人兵士、特に副官である佐藤の振る舞いは僕も見ていて嫌悪感を抱いた
くらいですので、だからこそ、イップマンが日本人兵士を叩きのめすシーンも生きてくる
のでしょうが。
まぁ、実際見たことありませんが、反日ドラマはこんな描写ではすまないらしいほど、
バカバカしい演出をしているそうですので、これくらいは可愛いものかもしれません。
ただ、歴史的背景、時代的背景があったとはいえ、ちょっと悲しいかなと感じました。
娯楽映画でこんなこと考えるのは無意味だけど。
日本が中国に攻め込んだ時、勝利したこともあって間違いなく、日本人は中国人より強い
だとか、勝っているという選民意識があったと思うわけです。
時代背景もあるでしょうし、破竹の勢いで攻め込めているわけですから、なかなか相手を
敬うといった感情は持てないでしょう。
だからといって、軍人として三浦将軍が占領地である仏山市の統治している一環で、腕に
覚えのある中国人を集めてきて、兵士と試合をさせるというのは、どうなんでしょうね。
しかもイップマンと自身が公衆の面前で試合をしてしまうなんて。
個人的な満足感を得るためにはいいかもしれません。一武闘家として他の流派や異種格闘技
と手合わせして倒してみたい、という欲望は、特に腕に自身があれば、持ってもおかしくない
感情です。
ですが、統治者としてその結果、制圧下にある民衆の感情が占領軍に対してどういう方向に
向かうのか、を考えれば、勝っても負けてもいい方向には向かわないでしょう。
穿った見方をすれば、兵士と中国人との間での試合は、中国人の溜まった不満というガスを
適度に抜くことに一役買ったかもしれません。
さらに穿った見方を進めれば、日本兵士にも中国人や中国の文化の中で日本にも勝るとも
劣らないものがあり、自分たちが勝者とは言え、決しておごってはならない、ということを
教える機会になったかもしれません。
ただ、基本的にあの時代、日本人が一番優れているという選民意識が教育によって子供の
頃から植え付けられていたので、中国人に負けた兵士は軍隊の中で、それこそメンツを
失うし、今でいういじめにあうかもしれません。
逆に中国人はこのことで一致団結することにもなるでしょうし、そうなれば集団として
占領軍に対抗しうる勢力を作ってしまうことになるとも限りません。
一番まずいのは中国人の勝利者をリーダーとして担ぎ上げる風潮が生まれることでしょう。
その人を中心に日本軍と対抗しようという雰囲気が生まれてしまえば、例え担ぎ上げられる
人物にその気がなくても、ことが起こってしまったら誰も止めることはできなくなります。
とまぁ、あんなことをしている三浦将軍の統治方法は、百害あって一利なしという代物で
現実問題、絶対にないでしょうが、映画の性質上、イップマンが合法的に日本人を叩きのめす
ためには、必要なシチュエーションではあるでしょうね。
まとめ
カンフー映画として戦闘シーンは、素晴らしいと思います。
タイマンだろうが、複数人との戦闘であろうがイップマンによる一方的な勝利で終わりますが、
映画ですので、そっちのほうが当たり前なのでしょう。
日本の時代劇も同じですものね。
イップマン個人の描かれ方から、そんな強さが似合う格闘家となっています。
強さをひけらかさず、しかしやる時はやる。勝ってもそのことは大した事ではような自然な
振る舞い。多分、この映画を見て詠春拳を習ってみたくなった人は多かったのではない
でしょうか。
しかも映画の中ではイップマンが自身の非力さを痛感する場面もあり、人間としての苦悩も
持ち合わせていることを見せてくれます。
無敵の拳士でも、占領下で家族を養う為には詠春拳は何の役にも立たない、そんな役に
立たないものしか取り柄のない自分は役立たずではないか。
そういって悩むイップマンの姿が、この映画の中で僕は一番好きでした。
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