映画「スイスアーミーマン」は不思議な映画で、自分に自信が持てなくて何もかも投げ
出し逃げ出した青年と頻繁におならをする死体との友情を描いた映画です。
こうやって書くと「おならをする死体」との「友情」と、頭の中にはてなマークが
浮かび上がってしまうかもしれませんが、二人のダニエルという監督が、映画の最初で
大笑いできて、エンディングで感動の為、泣けてくる映画を作りたい、との思いから
出来上がった作品で、多くの賞にノミネートされています。
そんな何もかも驚き満載の映画ですが、世界的に有名なダニエル・ラドクリフが死体役と
して出演し、話題をさらいました。
見事な演技を始めから終わりまでずっと披露していますが、なぜ、ダニエルは死体役を
仕事として引き受けたのか、インタビュー映像での受け答えからその答えを探ってみました。
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ダニエル・ラドクリフが死体役を引き受けた理由
死体役とはいえ、主役のうちの一人。しかもただの死体ではなくて喋るし、動くし。
とはいえ、ゾンビのような役どころでもなく、もう一人の主人公ハンクによって人間と
しての楽しみを教えられてまるで生き返るかのように、作品の中でできることを増やして
いきます。
そんな役どころをよくもまあ、引き受けたものだ、と思ってはじめは見ていました。
しかし、見終わった後に、どういう気持で引き受けたのかを知りたくなり、映画について
インタビューを受けているダニエル・ラドクリフのことを調べてみたところ、意外な
基準で役どころを選んでいることがわかりました。
誰もが死体役という、しかもいろいろなアクションを演じることになる前例のない役に
とても難しいのではないかと思うと思います。
僕自身もそう感じていましたが、ダニエル・ラドクリフは全く反対の考え方でした。
これまで前例もなく、また現実世界でも絶対に起こり得ない現象ですので、「間違って
いる」という答えがありません。
ですから、やってみて見た目がおかしくなければ、その演技が正解になると考えたのです。
そこは映画撮影ということでたくさんのスタッフもいて、こういう場面ではこうでは
ないか、というダニエル・ラドクリフのイメージを元にした演技を見ていて自然かどうか
を判断するのに、難しい状況ではありません。
たとえば、最初に死体のメニーが話をするシーン。ハンクによってお腹を抑えられて
空気が出ることで音声を発するのですが、最初はこもったような声を出し、やがて
発声に慣れてくるに従って普通に近い発音をするようになるであるとか。
それの応用で体の動きも死体が取りうるであろうと思われる動作をしていき、それを
続けることで自然さを出したといっています。
では、なぜメニーという死体役を引き受けたのでしょうか?
その質問には、こう答えています。
それこそたくさんの脚本が送られてきて出演依頼があるわけですが、全てが素晴らしい
ものばかりではありません。
中にはどうしようもなく、支離滅裂でひどいものもあるそうです。
そんな中、ダニエル・ラドクリフが役を引き受ける基準としているのは、彼がその役を
やってみたいと感じるかどうか、ということ。
この映画「スイスアーミーマン」の脚本はとても良くできていて、面白かったそうで、
しかもアイデアはこれまでにない、全く新しいもの。
更に加えて、映画が完成して彼の演技を上手いか下手かの批評はあっても、あっているか
間違っているかの批評はないことが決め手の一つだったそうです。
この映画「スイスアーミーマン」だけでなく、ダニエル・ラドクリフは作品に出演するか
どうかの基準を、作品がインディーズかメジャーかは関係なく、脚本を読んで気に入るか
どうかが、最大のポイントだと言っています。
その証拠に例えば、このインディーズ作品「スイスアーミーマン」の撮影は、2015年
7月14日から8月7日という、短い期間に行われましたが、その前の出演は「グランド・
イリュージョン2 見破られたトリック」というメジャー作品で、撮影が2014年の11月下旬
から2015年5月12日までかかった映画に出演していました。
家族の助けと撮影秘話
ニューヨーク・タイムズで出ていた記事ですが、「この映画にダニエル・ラドクリフが
死体役として出演するに当たり、両親や家族に出演許可を貰った」と言うものが出たそう
です。
まさか30歳近くにまでなってどの映画に出演するか、両親の許可を得ないといけない
わけではありません。インタビューでもそのことを茶化すコメントをしていました。
「ママ~、この映画に出たいんだけど~、なんて言うと思う?」って。
ダニエル・ラドクリフの両親もショービジネスで働いていることは有名で、かつて俳優も
していました。
特に父親は元著作権エージェントでその仕事柄、それこそ数え切れないほどの脚本をみて
来ている経験があるので、ダニエル・ラドクリフに出演依頼とともに送られてきた脚本に
ついてアドバイスを求めることがあるそうです。
そのことが回り回って、ニューヨーク・タイムズに誤解を与えかねない表現で載って
しまったというのが、事の真相でした。
撮影秘話として一番、特筆すべきはダミー人形でしょう。
死体役のダニエル・ラドクリフ、彼自身を常に死体役として使うのはどうか、ということ
から、等身大のダミー人形が作られました。しかも4体も。
例えば、死体のメニーを担いで森の中を徘徊するハンク役、ポールの負担を減らすことも
考慮に入れて作られたそうですが、作成した結果、ダミー人形とダニエル・ラドクリフ
本人との重さは15kgくらいしか違いませんでした。
たった15kg軽いだけであれば、ポールの負担にそれほど変わりがないことから、実際には
殆ど使われず、死体役としてダニエル・ラドクリフ本人が大半を演技したそうです。
人形を使ったシーンは身体的に演じることが不可能な場面、例えば、崖から転がり落ちる
シーンなどですが、その後に崖下から脱出するためにメニーの口に、ロープを端に結び
つけた棒をいれて発射させるシーンはダニエル・ラドクリフ本人が演じました。
海の上を疾走するシーンの殆どはダミー人形が使われましたが、最初にハンクが海に
浮かんだメニーにまたがるシーンはダニエル・ラドクリフ本人が演じています。
その他に、ダミー人形が使われたシーンは洞窟で目を覚ますとタヌキがメニーの顔を舐めて
いるシーン。ダニエル曰く、タヌキは凶暴だそうですので、まずは本人がやってみた
のかもしれません。
その他の撮影秘話
映画「スイスアーミーマン」は低予算のインディーズ作品であったため、撮影の随所に
アイデアが凝らされていました。
森の中の撮影は、全て森の中で行われ、今流行りの緑のシートに四方を囲まれたスタジオ
の中で撮影されることはありませんでした。
ハンク役のポールは、実際のセットの中での撮影にやりやすかったと話しています。
もう一つリアリティーが出る結果になったことですが、軽いダミー人形を担いで歩き回る
はずが、結局ダニエル・ラドクリフ本人を担いで森の中を歩き回る事になったポール。
まさかの事態に、事前に鍛えておけばよかったと後悔したそうです。
しかし、物は考えようで、映画内のハンクも全く運動ができそうにないもやしっ子。
そんな彼が生きるためにメニーを担いで、森の中を歩き回るわけですから、ハンクも
そこら中、筋肉痛を抱えて、毎日疲れているに違いありません。
そういったリアリティーさを演じる必要なく、演技に出せたので結果的に良かったと
話していました。
撮影の中でそれぞれが一番つらかったことを最後に紹介しています。
ダニエル・ラドクリフの辛かったのはハンバーガー。
ハンクによってメニーにいきていることの素晴らしさを教えるシーンの一つに、食事を
一緒にする物があります。
森の中でかき集められるものでハンバーガーを作ってメニーが食べていますが、そこには
動物の骨や毛が飛び出している、かなりワイルドなハンバーガー。
しかしそれはカメラ用の演出で、ダニエル・ラドクリフが食べる側はきちんと食べられる
材料で作られたハンバーガーでした。が、それはマッシュルームなどを使ったベジタリアン
バーガーで、おおよそダニエルが普段食べることのない、彼にとっては十分食欲減退させる
ようなハンバーガーだったそうです。
それをさも美味しそうに死体として食べることが難しかったと笑っていました。
一方でポール・ダノにとってはメニーの口から吹き出した水を飲むシーンでした。
このシーンもダニエル・ラドクリフ本人が死体役として出ており、横たわった彼の口に
カメラには映らないようにホースが取り付けられ、水が吹き出すようになっていました。
それでも、やはりポールには抵抗があったそうで、水を飲むシーンがきつかったと言って
います。
ダニエル・ラドクリフも撮影の際は、ホースから漏れた水が口の中に入り、それを
味わっているので、新鮮な普通の水とは分かっていますが、後からモニターで
そのシーンを確認した所、気持ち悪くなったと、かぶせていました。
このように低予算であるがため、いろいろな工夫が映画内で凝らされていました。
一番驚きは、手作りのバスで、あれもスタジオで作られたものではなく、森の中で拾った
ものを駆使して、あのバスを作り上げたそうです。
それができたのも、限られた人数の撮影クルーでしたが、皆が皆、撮影前から知り合いで、
かつて一緒に仕事したとか、一緒の学校に通っていた、という絆が、素晴らしい作品を
生み出したわけです。
ダニエル・ラドクリフにとって、この映画が二人の監督による初めての撮影作品で、
多少の不安、たとえば撮影中に意見の相違から口論がはじまるとか、が起こるのでは、
と心配していたそうです。
しかしそんなことは一度たりとも起こらず、スムーズに撮影は進んでいき、彼を驚かせ
ました。
そんなダニエル・ラドクリフに二人の監督のダニエルは数年かけてすべてのすり合わせを
した後に撮影に入っているからだ、と謎解きをしたそうです。
まとめ
映画「スイスアーミーマン」は好き嫌いが別れてしまう映画かもしれません。
しかし、奇妙な中にひかる美しさは誰もが感じることができる映画だと思います。
この撮影秘話を調べていくうちに、僕自身、この映画への興味が、既に見終わった後にも
かかわらず、大きくなることを感じていました。
みなさんにも、この記事がこの映画への興味をもっと湧くものにしたとすれば、
とても幸せです。
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