映画「テッド・バンディ」は主人公であるリズことエリザベス・クレプファーが執筆した回顧録をもとに映像化された作品です。
つまり二人が出会ってからテッドが死刑を執行されるまで、本当に起こったことが描かれている作品となります。
ですが、映画ですので、もちろんそのストーリーの中には映画用に作り変えられたフィクションが含まれています。
が、一つ一つのエピソードを見てみると、本当に起こったのことなのか、映画として演出されているのか、迷ってしまうものばかりですね。
そこで今回は映画の中で登場した12のエピソードがノンフィクションなのか、フィクションなのかを紹介していきたいと思います。
- 映画テッド・バンディは完全ノンフィクション?
- ノンフィクション・フィクション一覧
- リズとテッドが最初に出会ったのはバー:ノンフィクション
- リズがテッドと結婚の約束をしていた:ノンフィクション
- リズの同僚ジェリーがテッドに執着するリズを救った:フィクション
- テッドは司法取引を拒否し、無罪を主張した:ノンフィクション
- テッドは2度、脱獄を成功させた:ノンフィクション
- テッドはフロリダで捕まってからキャロルアンに助けを求めた:フィクション
- テッドは一度もリズを殺そうとはしなかった:フィクション
- テッドは公判中にキャロルアンと結婚を成立させた:ノンフィクション
- テッドは刑務所でリズと面会し殺人を自白した:フィクション
- テッドにはキャロル・アンとの間に娘がいる:ノンフィクション
- 裁判官がテッドを優秀な弁護士になる可能性があったとコメントした:ノンフィクション
- リズがテッドのことを警察にタレこんだ:ノンフィクション
- まとめ
映画テッド・バンディは完全ノンフィクション?
映画「テッド・バンディ」はこの映画の主人公リズことエリザベス・クレプファーが1988年に回顧録として発表した本『The Phantom Prince: My Life with Ted Bundy』(悪魔のプリンス: テッド・バンディと過ごした私の人生:著者訳 日本では出版されておらず)を原作にしています。
回顧録を原作ということで、映画に登場するエピソードはどれもノンフィクションということになるのでは、と思ってしまいます。
が、まさに「事実は小説より奇なり」を地でいっているような作り物のようで実は実際に起っていたことをそのままストーリーに取り入れたものが多い反面、映画の演出として作り出されたようなエピソードが盛りだくさんでした。
なにしろ、実際に起った9年に渡る出来事を1時間50分弱の映画に収めたわけですので、全てがノンフィクションというわけではないのが現実なのでしょう。
それでは一体何がノンフィクションで何がフィクションなのでしょうか?
ノンフィクション・フィクション一覧
今回は現実でもあり得るだろうけど、作り話っぽいよね、というエピソードを一つ一つ紹介していきたいと思います。
なかには、現実にありそうだけど、実はフィクション、というものもありますし、エピソードはノンフィクションだけど一部映画の都合で変更したというものもありますので、楽しみにしてみてください。
リズとテッドが最初に出会ったのはバー:ノンフィクション
映画の冒頭1969年にシングルマザーのリズがテッドに初めて出会うのは地元のバーでした。
しかも出会ってすぐにかなりの親密な関係になり、肉体関係にまでは発展しませんでしたが、テッドはリズの家に泊まっています。
このエピソードは、ノンフィクションで実際に原作の回顧録にも記されています。
そのバーの名前はサンドパイパー・ラウンジ。1969年の秋のことでした。
一方でリズと一緒にいた友人はジョアンナではなく、メアリン・チャイノで、後に彼女はインタビューでテッドの第一印象とその夜のリズとテッドのことを語っています。
それによると、
「バーに入ると店の反対側に彼がいた。全く悪い人には見えず、ビールを持ってこちらをじっと見つめていた。独特の魅力があり、いい人のように思えた。」
「その晩、リズはほとんどずっとテッドと一緒に過ごし、その後少ししてから付き合い始めた。」
そうです。
リズやのちに結婚したキャロル・アン、裁判所に彼の公判を見物しに群がってやってきた女性達などと同様、メアリンもテッドの魅力に気がついていたようです。
リズがテッドと結婚の約束をしていた:ノンフィクション
映画ではテッドがリズとあっという間に親密な付き合いになっていき、娘のモリーもすぐにテッドになついていました。
この描写は現実に起こった通りで、リズの回顧録や、他のジャーナリストが出版したテッド・バンディに関する書籍にもリズのインタビューとして登場します。
リズいわく、テッドと付き合い始めてすぐに、結婚式や生まれてくる子供の名前を考えたりしたそうで、テッドと出会えたのは宝くじにあたったような幸運だと思っていたそうです。
映画で、朝食を作るテッドの姿が登場しますが、実際にリズに、今いるアパートにキッチンがないため、リズの家で食事が作れるのが嬉しい、と話していたことも、後にリズが話していました。
リズの同僚ジェリーがテッドに執着するリズを救った:フィクション
テッドが警察に捕まり、かけられる事件の容疑がどんどんと増えていきます。
最初はテッドを信じていたものの、段々と明らかにされる真実に驚愕し、どうしていいかわからなくなっていくリズ。
精神的にも参ってしまう彼女に、同じ職場の同僚であるジェリー・トンプソンが新しい恋人として現れ、彼女をサポートします。
このジェリー・トンプソンというキャラクター、実は全くの創造で、実在した人物ではありません。
実際にテッドが捕まり、段々と明らかにされる真実の前に途方に暮れたリズをサポートした友人は、男性も女性も複数いたのでした。
しかし映画では、現実に起った事実を忠実に再現すると、登場人物が多くなるなどの不都合から、ジェリー・トンプソンという一人の男性にまとめられ、リズをテッドの影響下から現実世界に引き戻す役割を与えられたのでした。
そういう意味ではテッドと最初に会った際に一緒にいて、その後もリズのサポートをしている友人ジョアンナも、実在する人物ではなく、同じような理由で一人のキャラクターとしてまとめられることによって作り上げられた架空の人物です。
テッドは司法取引を拒否し、無罪を主張した:ノンフィクション
フロリダで裁判にかけられることになったテッド。
アメリカにある裁判制度の司法取引を求められ、真実を語って罪を認めることで罰を軽くすると提案されました。
罪を認めれば、死刑の代わりに懲役75年にするというのです。
テッドはこれを断り、一貫して無罪を主張して裁判に臨みました。
その様子は映画でも見事に再現されており、メディアの前に連れ出されたテッドは自信満々に取材陣やテレビクルーの前で、無実を掴むために裁判を闘うことを宣言しています。
その様子はテレビで全国放送され、翌日の新聞でもでかでかと報道されたのでした。
結果は映画の通りで、死刑判決が出たわけですが、実際には死刑判決は3度出ています。
それでも無罪を主張して再審を求めていましたが、その後、死刑執行日に近づくにつれ、過去の事件の真相を少しずつ語るという時間稼ぎの戦法にでるようになり、過去の殺人を認め始めたのでした。
テッドは2度、脱獄を成功させた:ノンフィクション
テッド・バンディは連続殺人事件だけではなく、警察に捕まってから2度も脱獄に成功しているところにも人気の理由があると思われます。
両方とも映画内できちんと描かれており、1回目の脱獄は裁判所のに2階にある図書室から天井を破って抜け出し、2回目は天井を破って脱獄しました。
ともにとても大胆なやり口で脱獄を成功させています。
特に2回目は、天井に穴を開けて夜な夜な天井裏を這い回り、逃げ道の下調べをし、12月30日という暮れにスタッフの多くがクリスマス休暇をとっている時期を見計らって、実行されたのでした。
この脱獄の際に必要なもの、たとえば天井に穴をあけるのこぎり刃など、がありましたが、それを他の囚人から購入したと、後に証言しています。
その費用の他に現金500ドルを集めたそうですが、それらは6ヶ月以上かけて面会人に持ち込んでもらったそうで、その中でも後に結婚をするキャロル・アンが大きな役割を果たしていた、とも明かしました。
テッドはフロリダで捕まってからキャロルアンに助けを求めた:フィクション
主人公のリズと対になるような立場のヒロイン、キャロル・アン。
牢獄にいる時間が長くなるにつれて、テッドから距離を置こうと努力するリズに対し、キャロル・アンはフロリダに引っ越してまで、テッドのサポートをし手助けをしています。
映画ではフロリダからキャロル・アンに連絡を取り、テッドにわざわざ面会に来た彼女と久々の再会をする、という演出がなされていますが、実際にはキャロル・アンとの関係はもっと前から続いていたのでした。
キャロル・アンとの関係はリズと付き合っている頃から始まっており、コロラド州でテッドが捕まっている際にも、リズはコロラド州へテッドに面会に訪れています。
テッドがコロラド州で脱獄をした際にも、その準備にキャロル・アンの手助けがとても重要だった、と後のインタビューで答えているほどでした。
その後、テッドがフロリダ州で捕まると、映画のようにフロリダ州へ引っ越して来ています。それもテッドが収監されている刑務所の65 kmほど離れた町に、でした。
この距離が遠いか近いかは、日本の感覚ではわかりにくかもしれませんが、広大なアメリカでは脱獄した囚人がすぐに町にたどり着けないよう、陸の孤島のような場所に刑務所が作られることが多いため、おそらく一番近い町であったことでしょう。
とにかく、実際のキャロン・アンはリズ以上にテッドに深く関わった女性と言えるでしょう。
テッドは一度もリズを殺そうとはしなかった:フィクション
映画内ではテッドは、凶悪なシリアルキラーでありながら、最後まで殺陣シーンを映像化することはなく、本当に犯人なのか、と思わせる演出が取られています。
リズに対しても、その娘のモリーに対しても、とても優しく頼りがいのある存在として描かれており、リズに対して一度も殺そうとすることはおろか、手を挙げる、声を荒らげることもありませんでした。
こういった演出は、逆に視聴者さえも、テッドの魅力に取りつかれ、裁判所に傍聴に駆けつけている多くの若い女性たちとおなじように、彼に無実のヒーローという印象を持ってしまうことを狙ったのだと思います。
しかし実際にはテッドはリズに対してどのような態度で接していたのでしょうか?
死刑が確定し、テッドの狙いがいかに死刑執行の延期させるか、になった時期、いくつかのジャーナリストのインタビューを受けています。
その中で1978年にテッドが明かしたのは、一度リズを殺そうと、家の暖炉の煙突に物を詰まらせて、リズが寝ている最中に一酸化炭素中毒が起きるように試みた、という事実でした。
その他にもボート遊びをしていてボートから突き落としたこともあったり、首の骨をへし折ってやると恫喝したこともあったり、肉体的、精神的にDVをおこなったことがあったりしたそうです。
つまり、テッドがとてもリズに対してはとても紳士的で彼女のことを深く愛し、いつもいたわりの心を忘れない理想の男性という姿は、映画内だけのつくり話だったということです。
テッドは公判中にキャロルアンと結婚を成立させた:ノンフィクション
映画の中でテッドがキャロル・アンに結婚を申し込み、古くに成立された法律のせいで存在した抜け道を利用して結婚を成立させたシーンが有りました。
これは実際に起きたことで、テッドとキャロル・アンは正式に婚姻関係になっています。
簡単に説明すると、
-
フロリダ州では裁判所で、裁判官立ち会いのもと、結婚の宣言をすることで正式な結婚とみなされる
という法律があり、それ以外にはどういった状況でないといけないという取り決めがなされていないことをテッドが利用したのでした。
ただし、映画と実際とで異なるのは、テッドとキャロル・アンが結婚したのはエドワード・カワート判事が裁判長を務める裁判ではなく、別の判事が裁判長を務めた裁判で、でした。
テッドは刑務所でリズと面会し殺人を自白した:フィクション
映画の冒頭と最後は、リズが死刑宣告を受けたテッドに刑務所へ面会に行き、面と向かって真実を教えろ、と詰め寄るシーンが使われていました。
テッドは犯人しか知り得ない情報をリズに知らせることで、間接的に犯行を自供したのでしたが、実際にこのようなシーンが現実であったのでしょうか?
現実にはこのようなシーンはありませんでした。
テッドは確かに死刑執行の少し前にリズに対して自身が起こした犯罪の数々を告白しています。が、それは面会という方法ではなく、電話での会話、という方法でした。
映画で電話ではなく、刑務所での面会という演出に変更したのは、理解できると思います。
視覚的にそちらのほうが、視聴者に与えるインパクトやスリルが高まるからです。
とはいえ、実際にリズとテッドの二人の間に起きた電話でのこの会話は、おそらく二人にとって、映画の中で見せたようなとても緊迫したものだったに違いありません。
テッドにはキャロル・アンとの間に娘がいる:ノンフィクション
判決の前に、キャロル・アンがテッドに妊娠のことを告げるシーンが有りました。
その前に面会室で賄賂を掴ませ、囚人と面会人の間にあるまじき、肉体交渉を可能にしているシーンには個人的には驚きましたが、その結果がそれですか、と更に驚いた覚えがあります。
映画が終わったあと、字幕でキャロル・アンはテッドの娘を出産したことが明かされてましたので、この事実がノンフィクションであることは映画をご覧になった方はご存知だとは思います。
が、妊娠、出産の時期については、映画と現実とでは異なるのでした。
テッドの娘であるローズ・バンディの生年月日は1982年10月24日。
テッドがフロリダで最初の死刑判決を受けたのが1979年7月24日。
そこには3年と3ヶ月もの時間の開きがあります。
映画のように死刑判決を聞いていた時点で妊娠をしていたのであれば、出産が1982年になることはありません。
つまり、妊娠は死刑判決が下ったあと、ということになり、死刑判決が下ったあともキャロル・アンはテッドのもとに通っていたことになるのです。
裁判官がテッドを優秀な弁護士になる可能性があったとコメントした:ノンフィクション
死刑判決を下したエドワード・カワート判事がテッドに対して、もしまっとうな人間として法学部をきちんと卒業し、弁護士になったとしたらとても優秀な弁護士になったろうし、そんなテッドと法廷で会いたかった、というコメントをしています。
こちらも実際にエドワード・カワート判事がテッドに対して公判中に公式に発言したもので、映画のスタッフロール中に、実際の映像が流れますので、ノンフィクションであることは分かると思います。
一方で、この映画の英語タイトルとなった「Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile」、日本語訳では「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」は、このエドワード・カワード判事が死刑を宣告した際に読み上げた、判決文に含まれているのでした。
リズがテッドのことを警察にタレこんだ:ノンフィクション
リズが最後にテッドに真実を話すように詰め寄った際、リズもテッドにずっと隠していた真実を伝えます。
それは、警察から殺人犯の似顔絵が公開されたとき、リズがテッドのことをその似顔絵に似ている人物として密告したことでした。
それまでリズのことをずっと信じてきていた様に見えていたテッドは、とても動揺していました。
その事もあってか、リズの気迫あふれる追求に、真実を伝えてしまいます。
実際にリズは、似顔絵が公開された際にテッドのことを警察に通報していました。
実はリズの他にも、かつての職場の同僚で、後にテッド・バンディの伝記書「私のそばの他人」を執筆した犯罪ルポライターのアン・ルール、そして別の職場の同僚一人、テッドが似顔絵が公開される数年前に卒業したワシントン大学心理学部の教授4人が、警察にテッドのことを情報提供という形で通報しています。
もちろんこのことはリズの知るところではないでしょうが、リズだけでなくテッドのことを知る人物で多くの人が、犯人ではないかと疑って警察に通報していました。
この真実を知ってしまうと、おそらく映画の中でリズが深刻に苦悩していたほど、無実の人物の人生をむちゃくちゃにしたのでは、という心配は必要なかったのではないかと思ってしまいました。
もっとうがった見方をすれば、本当のリズは、そんな罪悪感は一切持っていなかったのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
多くの部分でノンフィクションのエピソードが散りばめられていましたが、それでも多少映画のストーリーに沿うように変更されていたり、時間をずらされたりされています。
ストーリーをドラマチックにするには、仕方のない演出なのかもしれませんが、それはそれで、よいエンターテインメントを作るという目的のためには、必要なことなのでしょう。
映画自体はとても楽しめましたし、深く考えさせられる部分も多かったと思います。
シリアルキラーという、内容を知ってしまうと凄惨で暗い気持ちにしかならない題材をこの様に仕上げていることに、とても好感をもった作品だと感じました。
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