映画「死霊館 悪魔のせいなら、無実。」はエド&ロレイン・ウォーレン夫妻が主に主役を務める「死霊館ユニバース」シリーズの8作目。
今回もエド&ロレイン夫妻が実際にかかわった事件を元ネタにして映画が作成されています。
とはいえ、映画ですので実際に起こった話をエンターテイメントとして、視聴者に興味を持ってみてもらえるように演出しているのも事実。
となると、一体映画はどこまでがノンフィクションで何がフィクションなのかが気になってしまいます。
今回は映画の元ネタとなった「悪魔が私に殺させた」事件として有名な
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アーニージョンソン事件
そしてアメリカで裁判史上初めてにして唯一の、
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悪魔の憑依を理由に個人責任能力の欠如があるとして、無罪を主張した裁判アーニージョンソンこと「アルネ・シャイアン・ジョンソン」裁判のケース
を紹介しつつ、どこまでは映画通りなのか、またそうでない箇所はどこなのかを見ていくことにしましょう。
映画「死霊館3 悪魔のせいなら、無罪。」の元ネタ
まずは映画「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」の元ネタとなった実話を、
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・事件の発端
・アルネが悪魔にとりつかれた後
・殺人を犯してしまった当日
・そして逮捕後と裁判の結果について、
に分けて、紹介していきたいと思います。
元ネタ「アーニージョンソン事件」の発端
事件の発端は、悪魔にとりつかれてしまった少年、デヴィッド・グラツェルの両親が、とある貸し家に入居することが決まったことから始まりました。
引っ越す前に、その家を掃除するために訪れた日に、デヴィッドは家の中で年老いた男性を見かけた、と両親に話をしたのでした。
デヴィッドの話では、その男性は彼を小突いたりして怖がらせ、この家に引っ越してきたなら、必ず彼と彼の家族に危害を加える、と宣言したそうです。
この時は、デヴィッドの両親はデヴィッドが家の掃除をさぼりたいがために、うそを言って仮病を使っているのだと思ったそうでした。
そして両親は、彼の言葉を信じるはずもなく、その借家に引っ越すのですが、その後、デヴィッドにおかしな怪奇現象が降りかかります。
デヴィッドが両親に語ったところでは、怪しげな老人がこの世のものとは思えない野獣のような声でラテン語をぶつぶつとつぶやいていたかと思えば、デヴィッドに向かって彼の魂を食らってやる、と脅したとのこと。
しかし一方で、他の家族は怪しげな老人を見かけたことはありませんでした。
屋根裏からおかしな物音が聞こえるくらいしか、怪奇現象と呼ばれるものには遭遇していなかったのです。
が、デヴィッドに降りかかってくる怪奇現象はどんどんエスカレートしていきました。
夜な夜な起こる怪奇現象に、彼の体に付けられたひっかき傷やあざが増え、ついには昼間でも怪しげな老人を見たと言い出します。
息子の体に傷がついていることもあり、両親は教会の僧侶に助けを求めることにしたのでした。
住んでいる家を祝福して清めてもらったものの、彼ら一家はこの家が呪われており、これ以上住んでいてはいけない、と恐怖するようになったそうです。
そのため、両親はデヴィッドが怪奇現象を見始めてから12日後にウォーレン夫妻に連絡して助けを求めたのでした。
この依頼を受けて現地に向かった二人でしたが、ロレインはデヴィッドを見た時から彼に付きまとる黒い霧のようなものを感じたそうです。
デヴィッドの母親と姉のデビーは、ウォーレン夫妻に対し、デヴィッドは見えない手によって殴られ、首を絞められたことがあった、と話しました。
その時に二人とも、デヴィッドの首に赤くなって誰かに首を絞められたような跡がついているのを目撃していたのです。
ついにはデヴィッドのはうなり声やシーと声を出すような摩擦音、そしてこの世のものとは思えない声で、聖書の中の一節である「失楽園(蛇に唆されたアダムとイヴが、神の禁を破って「善悪の知識の実」を食べ、最終的にエデンの園を追放された物語)」を暗唱し始めます。
そのころには毎晩のようにデヴィッドは就寝中、けいれんに悩まされ、家族の誰かが常に付き添って彼の目を覚まさせなくてはいけなくなっていました。
ウォーレン夫妻による診察の結果、デヴィッドに対して除霊の儀式が行われることになります。
その際に、ロレインはデヴィッドが空中浮遊し、考えられないほどの時間、呼吸をせずにいたことを目撃しています。
さらに、後日アルネ・シャイアン・ジョンソンが犯すであろう殺人を予言した、と証言していました。
公式な警察の記録として1980年10月にロレインから電話があり、グラツェル家の状況でけが人が出る可能性があることを通報していたのが残っています。
デヴィッドの除霊儀式とその後
デヴィッドの除霊儀式において、デビーの恋人であるアルネ・シャイアン・ジョンソンが手助けに来ていました。
彼は儀式の最中、デヴィッドにとりついている悪霊に対し、身代わりになることを悪魔に対して訴えたことが、参加した人々によって目撃されています。
そしてその除霊儀式の数日後から、アルネに対して不可思議な現象が起こり始めたのでした。
そして悪魔や悪霊が見えたり、それらによって襲われたりしたような直接的な怪奇現象ではなかったものの、突然車のコントロールが効かなくなり、木に激突したという交通事故にあったのです。
幸い、この交通事故でアルネは大した傷は負っていません。
この事故の後、アルネはグラツェル家が住んでいた貸家に訪れたそうです。
そして悪霊が住み着いていたという古い井戸を確認したそうですが、そこで完全に悪霊にとりつかれた感覚が有ったそうでした。
ちなみにウォーレン夫妻はアルネを含めた儀式に参加した全員に、この貸家に近づかないように警告していたですが、アルネはその警告を破ってしまい、悪魔にとりつかれたことになったのです。
ちなみにデビーとアルネはデヴィッドの様子がおかしくなり始めたころ、二人で同棲を始めていました。
彼らの新しい住処は、デビーの雇い主でペットサロンを経営していたアラン・ボノという、ブルクフィールドに新しく引っ越してきた男性宅兼仕事場のすぐ近くです。
二人が一緒に住み始めてから、アルネに起こる怪奇現象がだんだんと増えていったそうです。
その怪奇現象はデヴィッドの周りに起こっていたことによく似ており、デビーはアルネが悪霊にとりつかれたのではないか、と恐れるようになっていったのでした。
デビーの証言では、アルネが意識を失ってトランスのような状態になり、うなり声や幻覚を見ているような発言をしたそうです。
が、気が付いたアルネに何が起こったのか聞いても、彼は意識を失った間のことを全く覚えていないのでした。
アルネ・シャイアン・ジョンソンによる犯行の目撃証言
殺人事件のあった日、1981年2月16日にアルネは、勤めていた職場に病欠の連絡を入れると、デビーの働くペットサロンを訪れました。
そこにはデビーの姉妹であるワンダと9歳になる従妹のマリーがいたそうです。
アルネとデビーの大家であり、デビーの雇い主であるアランは全員を連れて昼食に地元のバーへ行き、彼はそこで大量の飲酒をしたのでした。
昼食後、全員はペットサロンへ戻ります。
その後、デビーはワンダとマリーを連れてピザを買いに行きますが、なんとなくおかしな予感がしてペットショップに急いで戻ったそうでした。
その時点でアランはかなり酔っぱらって、戻ってきた彼らに対し、だれかれ構わず絡んでいたそうです。
デビーは身の危険を感じ、全員にその場から離れるように言いますが、アランは9歳のマリーをつかんで放そうとはしませんでした。
アルネはそんなアランにマリーを放すように説得します。
そして二人は言い争いになってしまいました。
ワンダがその後、警察に話した説明によると状況は以下のようだったそうです。
デビーが二人の男性の間に割って入って、落ち着かせようとし、その隙にマリーは外に走って逃げだしました。
ワンダも状況を治めるため、アルネを引き離そうとしていましたが、上手くいきません。
アルネは獣のようにうなり声を発し始め、突然刃渡り13センチほどのポケットナイフを取り出すと、アランに向け、数度、突き刺してしまいます。
この傷がもとでアランは数時間後に死亡してしまうのでした。
アルネは、というとその場を逃亡し、その後約3キロほど離れた場所で逮捕されます。
司法解剖の結果、4~5か所の大きな刺し傷を胸付近に負っており、その一つは胃から心臓のすぐ近くにまで達していたそうです。
ちなみにこの事件は、コネチカット州ブルックフィールドの町で起きた記録に残っている中で最初の殺人事件でした。
逮捕後&「アルネシャイアンジョンソン裁判」の経過と判決
殺人事件が起こった翌日、ウォーレン夫妻はアルネが悪魔にとりつかれていたために起こった殺人であると発表します。
この発表にメディアは飛びつき、センセーショナルに報道されるのでした。
裁判に関する詳細を調べていると、アルネの事件を担当することになった弁護士、マーティン・ミネラ氏はこのような反応を示したメディアを、逆に利用したような印象を受けました。
というのも、彼はわざわざイギリスに出張し、悪魔にとりつかれた犯人が起こした二つの事件を担当した弁護士に面会して話を聞く、という行動をしていたのでした。
(ちなみに結果的には2件とも裁判で争われてはいません。)
また、ヨーロッパから除霊の専門家を呼んで裁判で証言しようと計画したり、デヴィッドの除霊儀式を行った僧侶たちが裁判でアルネの弁護証言に協力しなかった場合、召喚状を出すと脅迫したりしたのです。
裁判は1981年10月28日に開始されました。
弁護士のミネラ氏は悪魔にとりつかれていての犯行のため、本人に責任はない、と無罪を主張します。
しかし判事のロバート・キャラハン氏はその主張を認めず、すぐに却下したのでした。
キャラハン判事は「そのような主張は法律的に証拠を示すことはできず、これに関連した証言は非科学的で関係性を判断できない」として、裁判所で裁くことを認めなかったのです。
この結果、弁護側はアルネの正当防衛による無罪を主張する方針に変更せざるを得ませんでした。
これによって、悪魔によって取りつかれた結果、発生した殺人という事例を裁判で判断を下す機会はなくなったのです。
陪審員は、3日間にわたって15時間審議したのち、1981年11月24日に過失致死罪でアルネを有罪とする判決を下しました。
アルネは10年から20年の懲役刑が下されましたが、その後、5年で出所しています。
アルネとデビーはアルネが刑務所にまだ収監されている最中に、結婚し、出所後も家族として生活し、二人の子供を授かっているのでした。
映画「死霊館3 悪魔のせいなら、無罪。」のノンフィクション部分
それでは映画「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」で描かれているストーリーのノンフィクション部分を紹介していきましょう。
デヴィッド・グラツェルが最初の犠牲者
映画で紹介されたとおり、まず悪魔に取りつかれた犠牲者はデヴィッド・グラツェルという少年でした。
多少の詳細は異なりますが、グレヴィル家が新しい家にやってきた日にデヴィッドが悪魔とであっている部分はノンフィクションです。
とはいえ、事実では、家にいた悪魔がデヴィッドを通じて引っ越してくることをあきらめるように要求しただけです。
それに対し、映画のほうは、デヴィッドがウォーターベッドでおぼれ死にしそうになるほどの大惨事を引き起こしていました。
エド&ロレイン・ウォーレン夫妻が除霊儀式を行った
デヴィッドにいくつもの不可解な怪奇現象が起きたことで、グラツェル夫妻はキリスト教の僧侶に助けを求めました。
それと同時にエド&ロレイン・ウォーレン夫妻にも助けを求めています。
これによってデヴィッドとアルネに降りかかった悪魔関連の事件にウォーレン夫妻がかかわることになります。
そしてそのことで、今回の映画「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」が作られたわけですね。
アルネ・シャイアン・ジョンソンがデヴィッドの身代わりとなった
デヴィッドにとりついた悪魔の除霊儀式が行われ、そこに参加した人々によって目撃されたわけですが、アルネがデヴィッドに取りついていた悪魔に、アルネが身代わりとなるので、デヴィッドを解放するように発言していました。
その後の現象を見てみると、デヴィッドにとりついていた悪魔がアルネに鞍替えしたかのように、アルネに対して怪奇現象が起き始めます。
ですので、悪魔はアルネが言ったとおり彼にとりつきなおしたのでしょう。
過去の記録を調べてみても、その後デヴィッドに怪奇現象が起きたという記録は出てきませんので、おそらくアルネの身代わり行動によってデヴィッドは怪奇現象から解放されたようです。
アルネも怪奇現象に悩まされた
悪魔にとりつかれたアルネは殺人事件を起こすまで、怪奇現象に悩まされていたことを証言しています。
車のコントロールが効かなくなり、交通事故を起こしたのですが、このエピソードは映画でも演出されていました。
ただ、一方で、アルネがデヴィッドと同じように悪魔の姿を見た、という記録はありません。
映画ではあまり詳しく描かれておらず、どちらかといえば幻聴や幻が聞こえたり見えたりしたように描かれていました。
実際には、アルネ自身明らかにおかしいトランス状態になっていることがあったようですが、そのことはアルネは覚えがない、と発言していることが記録として残っています。
映画と元ネタの実話との違いがある部分の紹介
続いて映画と実話で全く違う部分を指摘していきましょう。
何者かが悪魔儀式を行おうとしていた
映画では黒幕が悪魔儀式を行うためにグラツェル家に悪魔召喚用の黒魔術道具を忍ばせて置いたことになっていました。
が、実際にはそのような人物は実在せず、悪魔はグラツェル家が引っ越してきた家に住んでいた、ということになっています。
悪魔が何かしたかった、という記録はなく、あえて言えば、グラツェル一家が引っ越してこないようにしたかっただけでした。
デヴィッドに対して悪さをしていたことも、グラツェル一家が怖がって出て行ってくれればいい、という目的だったようにもとらえることができます。
アルネ・シャイアン・ジョンソンの犯した殺人に関してみれば、確かに殺人という途方もないことを、それ以前のふるまいや個人の性格からは考えられないことを起こしたということで、まさに悪魔の仕業と言えるでしょう。
とはいえ、実際に起こった事件の記録を見てみると、この殺人に何らかの意味があった、という感じではありません。
映画では、それではエンターテイメントとはならないため、もっともらしい悪魔儀式を持ち出して、ストーリーを展開させていたのです。
刑務所に入ってからも怪奇現象が続いた
殺人事件を起こした後のアルネに対し、怪奇現象が続いた、という記録はありませんでした。
おそらく逮捕されてから刑務所で過ごしている間、彼を悩ましていた怪奇現象は起こらなくなっていた、と思われます。
何か理由を挙げるとするなら、殺人をしたことで満足して悪魔はいなくなったようでした。
もちろん、それでは映画として成り立たないので、悪魔儀式を持ち出し、エド&ロレイン・ウォーレン夫妻が活躍するストーリーとしたわけです。
ただ、これによってホラー映画というよりは謎解き映画になってしまった感が出てしまいました。
裁判で悪魔憑依による殺人として裁かれた
裁判記録を確認すると、アルネの裁判は判事によって「悪魔憑依による責任能力の欠如」という主張は認められませんでした。
というよりも、「悪魔憑依による責任能力の欠如」という主張は弁護方針として受け入れられない、と裁判の開始早々、言い渡されています。
その結果、弁護士は弁護方針を転換し、アルネの正当防衛ということで裁判を争うことになりました。
ただ、裁判が始まる前に弁護士であるマーティン・ミネラ氏はマスコミを利用して盛大に話題性を書きたてさせ、世間の注目を浴びる戦略を取っていました。
マスコミも恰好のネタとして取り上げ、世界的なニュースになっていたようです。
とはいえ、映画のように裁判で弁護士の主張がわずかながら通り、超常現象を証明することでアルネの裁判結果が有利になる、といった展開にはなっていません。
これは完全に映画のストーリーのエンターテイメント性を高めるために作られた話ということになるのでした。
まとめ
アルネ・シャイアン・ジョンソンが起こした殺人事件は「悪魔が取りついて殺させた」事件としてアメリカの裁判史にも残る事件でした。
現実に起こったことを調べてみると、映画の前半、特にアルネが殺人を犯してしまうまでの描写は、かなり現実に起こった出来事をそのまま、取りいていることが分かります。
しかし裁判が始まってしまうと、記録上ではアルネにもデヴィッドにも悪魔による怪奇現象が起こったという事実はなくなってしまいます。
しかも裁判自体も弁護士が悪魔にとりつかれて起こした殺人であるため、本人に責任能力が無かったという主張はしたものの、一回目の公判で判事に却下されてしまっています。
結局、弁護戦略を正当防衛に変えなくてはならない、というもので、悪魔憑依について裁判で争われたわけではありませんでした。
映画ですので、お話を面白おかしくするために、後半はエド&ロレイン・ウォーレン夫妻が探偵のまねごとをしています。
個人的にはそれはそれで楽しめましたが、ホラー映画としてはちょっと無理がある作りになってしまったかな、と感じずにはいられませんでした。
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