映画「スキャンダル」は2016年にアメリカで視聴率ナンバー1であったFOXニュースに持ち上がったセクハラ訴訟の事件を題材にしている映画です。
FOXニュースを立ち上げ、全米1位の視聴率テレビ局に育て上げたCEOロジャー・エイルズが首にした人気キャスターに訴えられ、その後、FOXニュースのトップキャスター含めた数多くの女性から被害を訴えられた事件でした。
アメリカではとても大きなニュースとなり、知らない人はいないほどの大騒ぎになりましたが、その映画化ということでできあがった「スキャンダル」、果たしてどれほど実際に起こったことを映画に取り入れているのでしょうか?
今回はそんな映画内で描写されている現実でも起こったエピソード10選を紹介していきたいと思います。
映画「スキャンダル」は実話!?映画で見られる現実でも起こっていたこと
映画「スキャンダル」はかなり数多くの実話のエピソードを映画の中にちりばめています。
それでは、それらのエピソードを一つずつ見ていくことしましょう。
ロジャーは20人以上の女性にセクハラ被害を訴えられた
映画の中ではメーガンがロジャーからのセクハラ被害の聞き取り調査に出席した際、自分の証言をまとめておくファイルに「W」のコードが張られていることに気が付きます。
アルファベットの「W」は「A」から数えると23番目の文字。
つまりメーガンの前に22人の女性が証言し、それらの人たち一人一人にファイルが作成されてコードがつけられた、とメーガンは気が付くのでした。
現実には、訴えを起こしたグレッチェンの弁護士が、
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20名以上の女性が被害を受けたと証言した
と明かしています。
その中には、FOXニュースを辞めた女性もいれば、まだFOXニュースで働いている女性もいたといい、FOXニュースをすでにやめている女性の中には証言をしたことを顔出しで認めている人も多くいます。
反対にまだFOXニュースで働いている女性は、内部告発に加担した後のFOXニュース内での自分の立場を心配して、匿名での証言をしています。
映画で登場したケイラ・ポスピシルというキャラクターは、特にこの匿名で証言をした女性達の被害エピソードをまとめ、映画内では彼女一人が被害を受けたことにするために作りだされた実在しない女性なのでした。
しかし彼女が受けたロジャーからのセクハラ被害は、作り出されたものではなく、匿名で証言をした誰かがロジャーから受けていたものだったのです。
メーガンが発言した「サンタは白人」問題
映画の中でメーガンが
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「サンタは白人でないといけないのか?」
という議題を持ち出していました。
この「サンタは白人」問題はFOXニュースのなかでメーガンが発言して本当に起こった実話です。
その中でメーガンは
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「サンタは白人」
で、
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「有色人種のサンタはおかしい」
という立場を取っていました。
が、その後、この論争はヒートアップし、メーガンが「サンタは白人でないとだめだ」と激怒している人種差別者だ、というとらえられ方に変わっていきます。
メーガンはこれらの主張に対し、
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FOXニュースとメーガンは不当に差別主義者であると決めつけられている被害者である
と反論します。
が、テレビを言う公共性の高いものの中でこのサンタ問題に関して冗談を発言している映像が残っており、今度は
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情報操作をして「自分たちが被害者だ」という意識を視聴者に植え付けようとしている
という攻撃まで始まってしまうのでした。
ロジャーの妻エリザベルは夫をサポートし続けた
ロジャーの妻、エリザベスは映画内で、ロジャーがグレッチェンにセクハラで訴えられた際、夫のことをよく理解する良き妻という立場で行動していました。
その献身的な姿は、時間にしてはわずかでしたが、どんな状況でも夫を助け、支えるという女性として描かれています。
実は現実世界でもエリザベスはロジャーを生涯愛し続けます。
話が話ですので、エリザベスがロジャーのもとから離れていく展開もありえたのですが、訴訟問題が起きた後も、FOXニュースからロジャーが追い出された後も、離婚せずにロジャーと一緒に生活し、ロジャーの主張、「セクハラ行為はなかった」に疑問を挟むことはありませんでした。
とはいえ、ロジャーはグレッチェンとFOX グループが和解した2016年9月より8か月後、2017年5月18日にこの世を去ります。
エリザベスはロジャーが死ぬ日までロジャーの妻という地位にとどまり続け、夫をサポートしていたのでした。
グレッチェンは化粧なしでテレビに出演した
映画の中でグレッチェンがFOXニュースから首になる前に、番組に化粧なしで出演し、スタジオにやってきたロジャーに怒られるシーンがありました。
が、これも映画のために作られた話ではなく、実際にグレッチェンは化粧をせずにテレビに出演したことがあるのです。
2013年10月11日の国際ガールズデーに放送された番組で起こった「すっぴん出演」では
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テレビ放送初の試みである
と発言していました。
この出演時のトピックは、国際ガールズデーの放送にふさわしく、若い女性であることがいかに男性目線で作り上げられたものか、を取り上げたものだったのです。
そこでグレッチェンは、
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女性という性別がマーケティングの道具として使われている昨今、娘を母としてもとても心配しています。
若い女の子たちに女性として自信を持たせることはとても至難の業。
例えばおもちゃとして売られている人形のほとんどは、砂時計のような体形をしており、モノによってはミニドレスをまとって性を前面に押し出しているものもあります。
10代の女の子用にバストを持ち上げる効果のあるプッシュアップデザインがされたビキニも売られています。
国際ガールズデーである今日、本当に女の子たちに手本となるような番組をお届けしたいと思います。
とし、自分らしくあるために化粧をしなくても公式の場所に出られることを示す意味で、「すっぴん出演」をしたのでした。
また、グレッチェンが銃撃事件の後、凶器として使用されたアサルトライフルの売買禁止についての意見に賛成か反対かを問うシーンが映画に登場しました。
これは2016年6月12日にフロリダ州のオーランドで起きた銃撃事件を受けて、グレッチェンが自身の番組で本当に提案した一連をそのまま映画に使用しているのでした。
簡単にオーランドの銃撃事件の概要を説明すると、多数の客が集っていた同性愛者向けのナイトクラブで犯人が拳銃とアサルトライフルを使って乱射を行い、死者50名、負傷者53名という被害数を出した事件です。
これはアメリカで起こった銃撃事件としては史上最悪の被害者数で、テロ事件として9月11日の同時多発テロ以降、最悪のものとなった事件です。
そして犯人が使用したアサルトライフルという武器は、マシンガンのような短機関銃とハンドガンのような小銃の間の威力の弾薬を発射する、短く小型で単射と連射の切り替え射撃が可能な銃器のことで、連射が可能なため、一度引き金を引くと弾倉が空になるまで弾を発射することができます。
グレッチェンはこのような戦争のためにしか使用しないような銃が、フロリダでは拳銃を買うよりも簡単に購入できることを問題視し、また、アメリカの日常生活において、このような強力な武器が必要なのか?と視聴者に問いかけました。
そしてアサルトライフルの規制に対し、賛成の立場を表明、視聴者の意見を訪ねます。
結果、FOXニュースの視聴者は89%が規制に反対していることが分かりますが、グレッチェンは映画同様、
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意見の相違が認められることこそが偉大な民主主義国家、アメリカです
と発言して番組を終えたのでした。
ロジャーは人にドーナツを投げつけていた
映画の中でロジャーは人一倍被害妄想にとりつかれているとされていました。
実際のロジャーは本当に自分が害される、殺されるといつも心配しており、自身のオフィスの窓ガラスは防弾用になっていたそうです。
会社も自宅もセキュリティー設備は完璧な状態にしており、他人が自分の弱みを握ろうとしていると信じて、記者にスパイをつけていたほどでした。
そんなロジャーについて、感情に駆られて激怒すると、相手に対してドーナッツを投げつける癖があり、そのために常にドーナッツを常備しておく必要がある、と秘書がコメントしているシーンがありました。
このロジャーの癖はロジャー・エイリスの伝記本「The Loudest Voice in the Room(ザ ラウディスト ボイス イン ザ ルーム)」の中で紹介されており、実際にドーナッツを投げつけられた社員も多くいたそうです。
ただし、ロジャーがドーナッツを投げるために常に用意させておいた、というわけではなく、映画からも、実際のロジャーの体形からも分かるように健康面には無頓着であったという一例なのでした。
実際にはロジャーはドーナッツだけでなく、ルームサービスのメニューに掲載されているすべてを注文するのが常で、いつも何らかの食料が彼の近くにあったとか。
その中でドーナッツがつかんで投げやすかった、というだけのようです。
グレッチェンは裁判用証拠のために会話を録音していた
映画でグレッチェンは弁護士と相談してロジャーを訴える計画を立てていました。
その中で、ロジャーがグレッチェンにしたセクハラコメントの数々が、メモ帳に記載されています。
また映画の最後、20人以上の女性からもセクハラ被害を訴えられたロジャーに対し、グレッチェン側は切り札としてロジャーとの会話を録音したものがあると告げます。
実際にはグレッチェンは訴えを起こす2年前の2014年からアイフォンでロジャーの、そして他の男性同僚からのセクハラ発言をすべて録音して保管していました。
その証拠の中には、ロジャーが、
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「君とはずっと前から男女の関係になっておくべきだった。そうすれば君にとっても私にとっても良い時間を過ごして今日まで来れたのに。」
と発言したものがはっきりと残されていたそうです。
メーガンはトランプ支持者から嫌がらせを受けていた
映画の開始30分くらいまで、メーガンが大統領選に出馬しているドナルド・トランプへのインタビューをしたエピソードを中心に進んでいました。
メーガンはトランプ候補に対し、女性蔑視の発言をしていることを直接問いただします。
このトランプに対するメーガンの質問は、本当にされており、今での生中継された映像が残っています。
そしてこのことに対し、その場は大人の対応を見せたトランプでしたが、その後、ツイッターでメーガンを激しく非難。
これを見た熱狂的なトランプの支持者たちも、メーガンに攻撃を開始します。
多くはネット上での匿名を利用した誹謗中傷や脅しでした。
が、メーガンには映画でも登場したように幼い子供たちがいたため、とても怖い思いをしたと証言しています。
ただし、襲撃など実際に直接的な被害を受けたわけではありませんでした。
ロジャーはルパート・マードックと最後に会ってFOXニュースを去っていった
ロジャーのセクハラ訴訟がどんどんと分が悪くなっていくと、FOXニュースの親会社21センチュリーFOXが事態の収拾に乗り出します。
グレッチェンの訴えはロジャー一人に対してなされており、FOXニュースやFOXグループに対する訴えではありませんでした。
そこでFOXグループとして、ロジャーにトカゲのしっぽになってもらう結論に達します。
その決定をロジャーに伝えたのはロジャーをFOXニュースのCEOとして雇っていたFOXの所有者ルパート・マードックでした。
ルパートはロジャーを解雇し、40億ドルを支払っています。
そして映画の通り、ロジャーがFOXニュースを去るにあたって二人で記者会見して発表したいという申し出を断り、ロジャーがFOXを去る際には表に出ることはありませんでした。
また、ロジャーが解雇を宣言された会合に、映画ではルパートの息子、ラックラン・マードックとジェームズ・マードックが出席していましたが、実際にはジェームズは参加していません。
ロジャーはブラックルームと呼ばれる諜報機関を組織していた
ロジャーが被害妄想が大きいことは先に紹介しました。
そんなロジャーはFOXニュース内に「ブラックルーム」と呼ばれる諜報機関を設置し、その報告はロジャーだけにされるようにしていたそうです。
このことは「ドーナッツ」の件同様、ロジャー・エイリスの伝記本「The Loudest Voice in the Room(ザ ラウディスト ボイス イン ザ ルーム)」の中で紹介されており、広報や監視を目的として、探偵などが雇われていたそうです。
問題なのは、会社の予算で運営されている組織がロジャー個人だけが利用しているということであり、公私混同で一種の企業背信行為に当たる可能性があります。
が、ロジャーはその疑惑を否定しており、セクハラ行為同様、一切認めていません。
FOXニュースに暗黙のドレスコードが存在した
映画内で登場するFOXニュースの女性キャスターはすべてスカートを着用していました。
そしてロジャーがFOXニュースから去った後、FOXニュース内でパンツを着用している女性の姿を見かけるようになります。
この描写はロジャードレスコードという、ロジャーによって暗黙の了解、というよりは彼からの圧力による明記されていないルールによるものでした。
ロジャーは女性がミニスカートをはき、両足を視聴者に見せることは視聴率を取るために必須であると考えていたようです。
映画で描写されている女性キャスターの衣裳部屋が登場しましたが、現実世界でもそこにはパンツは一切なく、ミニスカートばかり。
足にどれだけ負担がかかろうともハイヒール限定でした。
さらに、女性の両足が見えるようなセットが常に組まれ、デスクはガラス張りのシースルーのものになったのです。
ある時、デスクの上に置かれたコンピューターのせいで女性キャスターの足が画面に映し出されなかったとき、ロジャーが「あのくそコンピューターをどけろ!」とスタジオに怒鳴り込んできたとか。
その他にもロジャー個人がオレンジ色が気に入らなかったため、衣裳部屋の服にオレンジのものは一切なかったほどの徹底ぶりでした。
そして映画同様、ロジャーがFOXニュースから去った後、FOXニュースで女性がパンツルックで出演することが許されるようになるのでした。
まとめ
いかがだったでしょうか?
このようにみていくと、映画「スキャンダル」はかなり実際に起こっていた出来事を映画の中に取り入れ、ノンフィクションである出来事を多く取り入れた作品であることが分かります。
そんな中、ほぼ唯一といっていい、映画のためにフィクションされたものがケイラ・ポスピシルというキャラクターなのですが、その理由も、登場人物を少なくして映画の上演時間を短くまとめるため、ということのほかに、ソースの出所が分からないように、情報提供者の個人情報を守るため、という部分が大きいことに、この事件の闇が今なお深いと思わざるを得ません。
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