アニメ「地獄楽」の登場キャラクター「傾主の杠」は甲斐忍者のくノ一と自称していました。
美しい外見から、あの手この手で男性を篭絡させて、自分の都合の良いように操ることに長けています。
そんな杠ですが、異名となっている「傾主」とは、どういった意味なのでしょうか?
また、「くノ一」ということですが、これについても詳しく調べてみたので紹介していきたいと思います。
地獄楽・杠の異名「傾主」の意味は?
アニメ「地獄楽」に登場するキャラクター「傾主の杠」
この異名となっている「傾主」の意味を調べてみましたので、順に紹介、解説していきます。
「傾主」という言葉は存在しない
実は、辞書を調べてみても「傾主(けいしゅ)」という言葉は存在しません。
おそらく漫画作者の造形語なのでしょう。
ですが、「傾」という言葉を含む四文字熟語と、杠の外見、性格から、おそらくこのような意味ではないか、ということが考察できるのでした。
「国を亡ぼす」という意味の言葉「傾国」から
「傾」という文字を含む四文字熟語とその意味について以下のようなものがあります。
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・傾城傾国(けいせいけいこく)
絶世の美女のたとえ。
容姿の美しさで人の心が魅了されて、城や国が傾いて滅びてしまうという意味から。
「傾国傾城」ともいう。
・一顧傾城(いっこけいせい)
絶世の美女のこと。
「一顧」はちらりと一度振り返ること。
「傾城」は城が傾くこと。
美女が一度ちらりとみるだけで町中の男たちが夢中になり、君主までもがそれに溺れ政治を投げ出してしまうということから。
・傾国美女(けいこくのびじょ)
「傾国」は国を傾け滅ぼすという意味。国政をないがして君主が心を引かれるほどの絶世の美女のこと。
これらのことから、まずは、杠が美女であるということを表したい、という思いを感じ取れます。
事実、杠はかなり美形に描かれていますし、その色香に惑わされた男たちも多いようです。
ただし、「傾」を含む四文字熟語で表される美女は、あまり良い意味では使われていません。
その美貌の故、国が亡ぶ、という結末になっています。
つまり、危険な美しさ、と言えばいいでしょうか。
杠も自身の利益を最大化させるためなら、その美貌を武器にすることに躊躇はありません。
そして篭絡した男性はあくまで利用価値のある道具としてしか、見ていないのです。
この部分も、国を亡ぼすほどの美貌を表す「傾」を含む四文字熟語に当てはまっていますね。
「傾主」は「主を傾けさせる」という意味
杠は国の君主をたぶらかし、玉の輿に乗って国を亡ぼす、ということは考えていません。
あくまで個人レベルで、自分自身が遂行すべき任務を達成させる、もしくはしたいことを叶える、という点を主眼としています。
ですので、そのために利用できる男性はとことん利用する、というスタンスであり、そのために利用した男性が社会的は地位を失おうと、命を失おうと、全く気にしていません。
つまり、男性を頼ることで、男性が杠の主人のように勝手に誤解し、その結果、使い捨てにされる、ということです。
それを現した言葉が「傾主」なのでしょう。
杠の木は毒を持つ
ちなみにですが、杠という植物はこのようなもので、普段からよく見かけると思います。
福島県以西の本州、四国、九州及び沖縄に分布するユズリハ科の常緑樹で、日本原産の木です。
内陸の山地に自生しますが、樹形が整いやすいため庭園や公園にもよく植栽されます。
一般的には注連飾り、蓬莱飾り、鏡餅の敷物など、この木の葉を正月飾りに使うことで知られています。
新葉が揃うまで古葉が落ちず、新旧の葉が着実に入れ替わるため、この様子に円満な世代交代や子孫繁栄を託したことが始まりとされています。
縁起の良い木として記念樹に使うことも多いのが特徴です。
ユズリハという名前は、上記の世代交代にちなむというのが通説です。
そのほかにも、太めの葉脈を弓弦(ゆづる=弓に張る糸)に見立てたという説もあります。
昔は「ゆづるは」という名前で呼ばれていて、万葉集にも「ゆづるは」で登場しています。
民間療法では葉や樹皮を薬用し、地方によっては若芽を正月菜とする風習もありますが、葉や樹皮にもダフニマクリン、ユズリンという有毒物質を含んでいますので、とても危険です。
かつては歯や樹皮を煎じて除虫薬として使うこともあったほど。
家畜が食べると起立不能、食欲不振、心臓麻痺等を引き起こすこともあるので、素人は手を出さないほうがいいでしょう。
11月~12月に熟してブルーベリーに似た実がなりますが、この実にも毒があるので、注意しましょう。
「くノ一」の詳しい解説
杠のことを作品内で「くのいち」と呼んでいます。
「くノ一」とは漢字の「女」を分解した「く」「ノ」「一」が元ネタ。
これが女忍者を表す言葉として、認識されてきました。
が、よくよく調べてみると、面白いことが分かりましたので、紹介します。
女忍者=「くノ一」は創作
忍者のことや歴史のことに少し詳しい人なら「くノ一」が女忍者を表すことは知っているほど、有名な言葉です。
が、調べてみると
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女忍者=「くノ一」
という概念は、創作であったことが分かりました。
1960年代にかけて人気を博した山田風太郎の小説「忍法帖シリーズ」の中で登場し、それ以降、小説、テレビドラマ、映画、漫画など多数の創作物に女忍者を指す言葉として登場したのがきっかけです。
もともと「くノ一」は女性を示す隠語であり、女忍者とは全く関係のない言葉でした。
それどころか、忍者の里として名高い伊賀がある三重県の国立大学三重大学の教授らによる、近年の研究では、忍者として偵察や破壊活動を行った女性忍者の存在は、どの資料からも記録として発見できなかったことが分かっています。
つまり、女忍者=「くノ一」という概念よりも、女忍者という存在自体、なかった可能性が高いというのが、現段階での研究結果なのでした。
忍術書にある「くノ一の術」
現代に伝わる忍法書の『万川集海』巻八には、実は「くノ一の術」という術が掲載されています。
この「くノ一の術」の内容は、男では潜入しにくい場所に、代わりに女を潜入させるというものでした。
また「くノ一の術」の次に載っている「隠蓑の術」があります。
詳しくは、二重底の木櫃を使って人を潜入させる術ですが、その際に「くノ一」が木櫃に関して嘘の口実を述べる事により、潜入を助けるという描写が記載されていました。
これからわかるのは、どちらも「女を使った術」=「くノ一の術」ということです。
しかしこの術から関与している女の忍者とするか、女は忍びではなく、術の道具とみなすかは意見がわかれるところでしょう。
関連記事:地獄楽・飢渇丸の材料や作り方は?味や兵糧丸や水渇丸の効能についても
まとめ
アニメ「地獄楽」に登場する杠。
彼女に付けられて「傾主」という単語は、実は存在しない言葉でした。
一方で「傾」と言葉を使った四文字熟語を調べてみると、国が傾くほどの美女という意味の「傾国美女」といった言葉が見つかりました。
そこから、杠の性格を合わせて考えると、「傾主」とは
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男性を堕落させてしまうほどの美女
とするのが自然だと思われます。
また杠という植物を調べてみると、昔から縁起の良いものとして人々に利用されてきた半面、なんと毒があることが分かりました。
これなども、杠というキャラクターを暗示しているようで、とても興味深かったです。
また、「くノ一」という言葉ですが、今では
女忍者=「くノ一」
と考えられています。
だからこそ、杠もくのいちと紹介されていますし。
しかし「くノ一」という言葉は女性を表す隠語であっただけで、女忍者とは何の関係もないことが分かりました。
女忍者=「くノ一」となったのは、1960年代に人気のあった忍者小説がきっかけだったのです。
また、大学の歴史博士の研究では、女性が男性のように忍者として偵察や破壊活動を行った事実は、史料の中に発見できず、女忍者という存在があったという証拠はまだ見つかっていないそうです。
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