映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を見てきました。
アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞やら13部門でノミネートされ、前評判は高い
作品でした。
個人的な見た感想は、というとまず映像的にきれいだな、というものでした。
あとで詳しく書きますが、監督のこだわりで色が統一されていたり、ミュージカル調の
音楽が多用されていたり。
1960年前後の有名な舞台ショーをたくさん知っていると嬉しくなるような音楽の使われ
方をしていたのが印象的でした。
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予告動画
登場人物とあらすじ
サリー・ホーキンス: イライザ・エスポシト
マイケル・シャノン: ストリックランド大佐
半魚人: ダグ・ジョーンズ
リチャード・ジェイキンス: ジャイルズ
オクタヴィア・スペンサー: ゼルダ
赤ん坊の頃に首に傷を受け、その傷跡が残るイライザはその傷のせいで話すことができ
ません。
ときは1962年の冷戦下、彼女はボルチモアにある政府の研究施設で清掃婦として深夜、
働いており、家族はなく、友人は同じ清掃婦の黒人女性ゼルダと隣に住む初老の画家
ジャイルズだけでした。
ある日研究所に謎の生物とそれを捕まえた軍の大佐、ストリックランドがやってきます。
南米で捕まえられた半魚人の正体を調べようとするストリックランドは半魚人を解剖する
ことを決めます。
一方で半魚人の存在を知ったイライザは、秘密裏に半魚人に近づいて心を通わせて行くの
でした。
ひょんなことからイライザは、半魚人の解剖を知ることとなり、救出することを決めます。
ジャイルズの手助けを受け、ゼルダと研究所で働くソビエトからのスパイでもあるホフス
テトラー博士の助けも借りて、無事、自宅のアパートに匿うことに成功します。
海へ通じる運河が開かれる10月上旬に、半魚人を逃す計画を立てますが、それまでの間、
イライザと半魚人はどんどん心を通わせ、遂には種の違いを飛び越えて結ばれるのでした。
一方で半魚人を失った責任を背負わされたストリックランドはイライザとホフステトラー
博士に疑いの目を向けます。
ホフステトラー博士はスパイ組織のトップから半魚人の殺害を命じられていましたが、
科学者としての信念からそれができず、ついには組織から始末されてしまいます。
その現場にホフステトラー博士をマークしていたストリックランドが現れ、トドメを刺さ
れる博士を助けますが、それは半魚人の情報を聞き出すためであり、ストリックランドは
博士を痛めつけて、真相を聞き出すのでした。
ゼルダからストリックランドが秘密を知ったことを伝えられたイライザとジャイルズは
半魚人を連れて運河のたもとまでやってきます。
が、ストリックランドが現れ、半魚人とイライザを銃で打ち抜き、二人は地面に倒れて
こんでしまうのでした。
しかし半魚人は自身の治癒能力で起き上がり、ストリックランドを始末した後、
イライザを抱きかかえて海に飛び込みます。
海の中で半魚人がイライザにキスをすると、イライザの傷は治り、クビの傷跡はエラに
変わるのでした。
安全な水の中で抱き合う二人。それをバックにジャイルズのナレーションが入り、彼は
半魚人とイライザが末永く幸せに暮らしたであろうと思うとして映画は修了します。
究極の愛?孤独な女性が孤独な生物に親近感を抱いた結果?
映画のキャッチコピーとして「究極の愛」とか「究極のファンタジーロマンス」とか
いわれていますが、正直に見た感想を言うと、本当に愛なんだろうかと想ってしまった
わけです。
確かにイライザのした行為、彼女自身そこまで重大に考えていないようでしたが、
結果的に国や軍を敵に回してまで半魚人の命を救うことは「愛」なんだろうと一応、納得
できるのですが、対象が人間でなく半魚人というところで、殺処分されそうな犬や猫を
救うのと、代わりがあるのだろうか、と思ってしまったわけなんです。
確かに半魚人がイライザのことをどんどんと理解して、愛に応えるかのような反応を
見せてくれていますが、こういうと「同じにするな」と怒られそうですが、うちの犬で
さえ、愛情を返してくれていると思うんですよね。
まあ、言ってしまえば人に対する愛情もペットに対する愛情も、結局は同じなのかも
しれないですけど。
なまじ二足歩行出来て、人間大の大きさだから、西洋人が重要視する肉体的な満足も
与えてくれるから、「究極のロマンス」になるのかな、と邪推もしたりして。
まぁ、愛の中でもこの部分が重要な一部であることは否定しませんけど。
ただ、もし性交が不能だった場合、イライザは不満に思うのか、って逆にツッコミたく
なりましたけどね。
その点がダメだったために、最終的には一緒にならないなんてオチもありえたのかどうか、
聞いてみたくなりました。
1960年台でまだ人種差別がひどい時代、男女間の差別ももちろん存在していました。
それに加えて喋られないという身体障害を持つイライザは、誰にも認めてもらえない、
存在に気がついてもらえないという境遇でずっと生きてきたと思います。
そんなとき、彼女を一つの個性として認め、彼女の存在が必要だという存在に出会って
しまった。たとえそれが人間でなく、半魚人という怪物のような存在だったとしても
彼女は、自分の存在意義を初めて感じることができたと思うのです。
だからこそ、ある意味「無償の愛」で尽くしたわけで、半魚人が良い生き物だったので、
それに答えてくれた。だから美しく、映画として成り立つのだ、と考えるのは邪推でしょうか?
男性経験のない女性が悪い男に捕まって、例えば会社の金を横領して貢いだり、なんて
事件が起きたりしますが、そういう女性とイライザがどう違うのか、正直、僕の人生
経験では違いがわからないな~、とまで考えさせられた映画でした。
脇役のキャラが立ちすぎ!見事に使い切っていると驚嘆しました
イライザの健気さを活かすためには、やはりストリックランドのような横暴な敵役が
不可欠で、彼が暴力的で、尊大で、サディスティックで、デリカシーもなく、差別的で
あればあるほど、二人(?)の純愛が色鮮やかに輝くわけですが、マイケル・シャノンの
演技はまさにうってつけと思われる出来でした。
トイレに行っても手を洗わず、小便を便器外にしても意に介さない。その手で飴玉を食べ、
またその飴玉をいつも、ガリガリと耳障りに噛み砕いて食べている。
半魚人を痛めつけ、うめき声しか出せないのを見て喜んでいたかと思えば、イライザにも
声が出なくてもうめき声は出せるだろうとせまってみたり、自分の奥さんとの行為の
最中にも声をだすなと口を抑える始末で(日本版はこのシーン、カットされてるかも)、
かなり性癖がサイコパスに傾いているのでは、と思わざるをえませんでした。
ただ、あんな男性でも会いしてくれる奥さんや可愛らしい娘や息子がいるのは驚きと
いうか、似合わないな、という印象を持ってしまいます。
大体家族といて、ニコリともしない夫や父親で、特に子供があんなに可愛らしく
キャッキャしているのが、とてもしっくりいかないと感じたのです。
ストリックランドだけ、浮いているようで、違和感を持ちましたね。
もう一人の脇役は隣人のジャイルズ。
実はイライザだけが、彼にとってつながりのある人間だったことを気付かされ、彼女の
無茶な頼みにも最後には協力することになります。
時代の波に常に乗れない人物のようで、いつも自分が生まれたのが、間違った時代だと
諦めているような人物で、それでいて人とのつながりにとても渇望している。
そんな哀愁あふれる老人役を見事にこなして、表現していたと思います。
半魚人の治癒能力で髪の毛が生えてきたことに大喜びするシーンは、僕も毛が薄いので、
ほのぼのとしてしまいました。
あんな大したことでもないことで興奮するんだと。自分だったら大喜びするのかな?
僕としては、イライザがいなくなった後のジャイルズがどうなるのだろうかというほうが、
気になりましたね。猫しかいなくなってしまって。
彼のスケッチしていたイライザと半魚人の絵が評価された、なんて展開だったら出来過ぎ
でしょうか?
ところで映画のエインディング、イライザがエラを持つようになったことは実際に起った
ことなんでしょうか?
水の中で、ジャイルズのナレーションとともに起こっているからか、イライザが生き
返って半魚人になったというあの部分は、全くのジャイルズの希望的空想で、と思えて
仕方ありませんでした。
政府務めの哀愁
映画を見て心動かされたのは、実は政府勤めの悲しさでした。
まずはストリックランド。
人間性はさておき、見るからに仕事に関してモーレツに働いていくようなタイプです。
上司のホイスト将軍にも13年もの間、上官に使えてミスらしいミスもせず、手柄を重ねて
いった忠実な部下であると言っていました。
今回の半魚人逃走事件が初めての汚点であり、それだけで今までの功績を無視してすぐに
左遷というはどうか、と直訴していましたが、それは彼自身の視点からだけの判断であり、
上官の見方は全く異なっていました。
ミスらしいミスをしないことは当たり前で、手柄にはならず、一つの汚点だけで失脚する
には十分だと冷たい返事だったのです。
どう見てもストリックランドの性格から可愛げがあるとは思えませんし、仕事はできるが
勤務態度に難あり、という評価だったのかもしれません。
だからこそ、一度の失敗で体よく左遷をさせたかったのかも、と邪推してしまいます。
彼の仕事の進め方など、政府の高官という地位があってこそのもので、あの性格では
民間に行って活躍などは到底できないと思われます。
政府高官という地位からほっぽりだされれば、家族生活も維持できなくなるでしょうし、
そうなると、世知辛いポジションだなと薄ら寒くなってしまいました。
そしてホフステトラー博士。
ソビエトスパイというさらに特殊な立ち位置で、かわいそうに組織には切られ、身分は
バレて拷問されと踏んだり蹴ったりです。
それというのも科学者としての自分のアイデンティを強く出しすぎたせいですが、彼も
彼の希望はいえてもそれが必ずかなえられるような立場でないだけに、最後は惨めな
死に方になってしまいました。
ただ、ヒミツに関して肉体を痛めつけられていても、確信的なことは言っていません
でしたので、科学者としてのプライドを守り抜いたのかな、と思いました。
ストリックランドにバレてはいましたが。
例えば博士がモスクワの高い地位の誰かに直接コンタクト取れるパイプでもあれば、
もう少し違った結末になっていたのかもしれません。
あるいは、彼の上司がある程度、科学の分野に理解がある人物であったとしたら、です。
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