映画「ビガイルド 欲望の目覚め」が公開されましたが、この映画は1966年の小説が
元ネタで、1971年にクリント・イーストウッド主演で既に映画化されています。
それまでのクリント・イーストウッドは西部劇のヒーロー役をしていたのですが、
「ビガイルド」では、生き残るためとはいえ、12歳から年配の女性を誰彼構わず、口説き
まくり、その気にさせた上に、片足を失って自暴自棄になり、図られて毒殺されるという
全くヒーローにあるまじき、役柄を熱演しています。
後にも書きますが、ボク個人は全体的に良かったと思いました。が、当時、興行的に
うまくいかなかった映画だったそうです。
今回ソフィア・コッポラ監督が既に映画化されていることは忘れ、リメイクを作るという
つもりは全くない中で撮影されましたが、せっかくですので、旧作との比較を紹介したい
と思います。
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女性目線と男性目線、とはいえ旧作のほうがわかりやすいのは男性が単純だから?
旧作はクリント・イーストウッド演じるジョンの視線で映画が進んでいきます。
一方で新作は監督が明言しているとおり、女性目線で描いた映画で、旧作との違いを
明確にしています。
とはいえ、どちらも女性が一人でいるときのシーンをキチンと描いたり、同じくジョンが
一人でいるシーンも描かれていますので、それほどの違いがあるわけではありません。
敢えて男性目線、女性目線というのであれば、旧作では女性達がジョンに対する興味や
好意が大きくなるにつれ、目に見えて女性達の行動や妄想が変わっていくのがわかり
やすく描かれています。
一方で新作というと、旧作に比べると女性たちに、それこそ明白な行動の違いが出ている
ようには見えませんでした。
案外、これって僕が男性で鈍感だから気が付かなかっただけなのかな、とも思ってしまい
ましたが。
学校長のマーサの変わりようといったらそれはもう、激しくて、高潔な教育者の仮面の
下にある、他人にはみせられない欲望がにじみ出ているように感じるシーンなどもあり
ました。
ニコール・キッドマン演じるマーサはそういった美徳がよろめいた瞬間があったようには
見受けられましたが、旧作ほどの乱れ具合というか、邪な考えが彼女の中で期待として
膨らんでいると悟られるようなシーンは気が付きませんでした。
だいたい、おそらく原作でもそうだと思いますが、旧作では過去にマーサは自分の兄弟と
かなり親密な関係にあったことが感じられるシーンがあります。
新作ではそのようなマーサの過去は、一切語られていませんでした。
おそらく監督の女性としての美しさをみせたいという思いから、カットされたのだと
思います。
「ビガイルド」の意味すること
ところで題名の「ビガイルド」ですが、日本語に訳すと「偽りの」、「騙すこと」という
言葉になります。
ただ、このことを知っても新作を見たあとで、一体何を指して「偽りの」物事があった
というのか、今ひとつピンときませんでした。
ところが旧作では、そのことが明確にわかるようになっています。
まず第一にジョン。
彼は生き残りたいがため、北軍の兵士ではあるが、前線での戦闘兵ではなく、後方支援の
看護兵だと偽ります。
エドウィーナへの愛情は本物だったようですが、戦争中で軍隊に従軍しているという
特殊な事情があるにせよ、他の女性へ手が出せるチャンスが有るなら、それを最大限、
活かそうと旺盛です。
次にマーサ。
上にも書きましたが、独り身が長い教育者という地位にいる女性であるため、異性に
対する欲望を大ピラにできないという事情があるものの、周りが勝手に当てはめた
その姿は実は偽りである、ということになってしまっています。
そしてエドウィーナ。
新作では詳しい事情が明かされませんでしたが、男性不信の性格でジョンへの思いを
持っても進むか止めるかと行ったり来たりしていました。
しかしそれは経験の無さからくる偽りで本当はジョンを愛しており、一緒に学校を出る
決意までします。
ちなみに旧作で明かされたエドウィーナの男性不信は、実の父親が浮気症の男性で、
母親を苦しめていたから、だそうです。
女生徒達の違い
違いと言えると思いますが、新作ではアリシア、エイミーを始め、ジェーンやエミリー
の存在感は強くあり、唯一マリーだけが存在感の薄いキャラとなっていました。
一方で旧作ではアリシアに当たるキャロルはジョンを巡ってマーサとエドゥーナと取り
合いをする程の重要な役柄で、エイミーもクリント・イーストウッドとキスをする
シーンがあるくらい、しっかりと描かかれていました。
ジェーンは何かとジョンを敵兵といって反発していましたが、残りの女学生はほとんど
存在感はありません。
また、新作ではカットされていた黒人奴隷ヘイリーが旧作で出ており、北軍のジョンが
奴隷解放のための戦争をしていること、ヘイリーに奴隷でいることに納得しているかを
聞くシーンがあるなど、南北戦争という時代背景と人種差別という社会的問題も映画の
中で語られています。
ところが、新作の方は黒人は一切出てこず、戦時中ということは映画の話に関係して
いても、黒人奴隷とか差別というものには一切触れずに映画は進んでいきました。
おそらく監督が、女性を描きたいという希望があり、彼女達の心の移り変わりを捉える
ことに重きを置いたため、奴隷問題には全く触れたくなかったのではないかと思いました。
新作、旧作ともに重要な役柄であるアリシアとキャロル。
新作では年齢は公表されていませんが、旧作で17歳だと述べています。
夜の聖書読書の時間に抜け出してジョンの部屋に忍び込み、寝ているジョンにキスする
シーンは一緒ですが、ジョンがそれに気づき、会話を交わす旧作では、その後もキャロル
はジョンを手に入れるため、そしてエドウィーナに嫉妬したために、アグレッシブな
行動に出ます。
昼間の庭でジョンと密会をしたり、はっきりと夜、自分の部屋に誘ったり。
全ては若気の至りと好奇心からの行動ですが、見ていて非常に危なっかしいです。
一方で新作のアリシアですが、初めはどちらかと言うとジョンを敵兵として見て、敵対
するような言動をします。
しかしそれはジョンに対する強い好奇心を隠すための手段のようで、ジョンの命を救った
ことで、彼にとって特別な存在だと信じているエイミーに意地悪く、対応したり、自分が
ジョンに対してどれだけ特別なことをしたかのアピール合戦に参戦したりと、幼気な行動
を取ります。
それが、いきなりジョンの夜這いに発展するのはちょっと進展が早いのでは、と思ったり
もしましたが、どちらかと言うとジョンが悪いので、多分彼の方から押しかけたのだろう
と思いました。
旧作のように自らジョンを部屋に導くようなシーンはありませんでしたので、そこまで
悪い女の子として描かれていませんが、おそらくこれも監督の意向なのでしょう。
まとめ
こうやって紹介してみると、新作の「ビガイルド」に副題で「欲望の目覚め」とついて
いることが、僕個人としては違和感がありました。
旧作でははっきりと分かる愛情、嫉妬、欲望が新作ではあまりきちんと感じられなかった
からです。
ただし、上にも書きましたがこれは僕が男性だから気が付かないのであって、女性なら
とても明白に、女性たちの心の動きを察しているのではないかと、考えてしまいます。
一度、女性に感想を聞いてみたいものです。
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