映画「世界の果ての鼓動」を見てきました。
映画ドットコムのあらすじだけを予備知識として見たのですが、あらすじのような展開になかなかならないので、途中、何度か時計を見てしまいました。
それだけ、時間配分に問題があった映画だったと思います。
原作は小説とのことですが、小説も映画と同じストーリーの流れだったのかが、気になりました。
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簡単なあらすじとキャストの紹介
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」の巨匠ビム・ベンダース監督、「リリーのすべて」のアリシア・ビカンダー、「X-MEN」シリーズのジェームズ・マカボイ主演による恋愛サスペンス。
フランス・ノルマンディーの海辺にあるホテルで出会ったダニーとジェームズは、わずか5日間で情熱的な恋に落ち、互いが生涯の相手であることに気付くが、生物数学者であるダニーにはグリーンランドの深海に潜り地球上の生命の起源を解明する調査、そしてMI-6の諜報員であるジェームズには南ソマリアに潜入して爆弾テロを阻止する任務が待っていた。
互いの務めを果たすため別れた2人だったが、やがてダニーは潜水艇が海底で操縦停止となる事態に遭遇し、ジェームズはジハード戦士に拘束されてしまうという、それぞれが極限の死地に立たされてしまう。
ジェームズ・モア: ジェームズ・マカボイ
ダニー・フリンダーズ: アリシア・ビカンダー
ドクターシャディッド: アレクサンダー・シディグ
サイーフ: レダ・カティブ
サムズ: ケリン・ジョーンズ
引用「映画ドットコム」
旅先で出会った二人が恋に落ちる
映画とか小説でのお決まりのような展開。
旅先で知り合った男女が燃え上がるような恋に短期間で落ちてしまう、ということが本当にあるのだろうか、と考え込んでしまいました。
正直、僕もそんなシチュエーションに憧れますよ。
でも、そんな事、まず起こらないでしょ。
僕は男で、女心をそんなによく理解している方ではありません。
そんな僕が、ダニーがとった行動が実際に起こり得るのか、想像してみたのですが、どうもピンとこないというか、イメージが湧きませんでした。
午前中遅くに浜を散歩していたダニーが、浜をジョギングしているジェームズに出会います。
お互い声をかけ、ランチを一緒に取ることになり、そのまま午後も一緒に過ごして、その日の夜にダニーがジェームズを部屋に誘うのです。
そんな、男にとって夢のような展開を叶えてくれる女性と旅先で出会えるのでしょうか?
しかも、一夜限りの情事で終わらず、数日間一緒に時間を過ごし、将来を約束するまでになってしまうのです。
たしか、同じようなシチュエーションで、留学から帰ってきた娘が知り合って3ヶ月しか経っていない婚約者を連れて帰ってきて、数カ月後に結婚式を挙げるまでの父親の慌てぶりを題材にした1991年公開のコメディ映画、スティーブ・マーティン主演の「花嫁のパパ」を思わず、思い出してしまいました。
まぁ、「花嫁のパパ」は新婦となる娘が22歳。
一方でダニーはすでに数学生物博士となっていることから30歳前後だとは思われますので、年齢差や、職歴などの違いがあり、ダニーの父親が慌てふためくことはないでしょうけど。
話が飛んでしまったので、もとに戻します。
MI6の諜報部員であるジェームズが、殺伐とした戦争という特殊な空間に疲れ果てて、ダニーを見つけた、というのであれば理解できる気がします。
たまたまより深い結び付きを感じたので、将来を約束するまでになったのは、死と隣り合わせの戦場に疲れ、家族を持つという仏の生活に憧れて、という心の動きが想像できるからです。
ところがダニーが、男性とくっつく必要性がわかりませんでした。
そこまで孤独だったのか、恋愛関係の彼女の過去がはっきりと語られていないので、旅先で出会った男性と将来を誓い合うまでの恋に落ちてしまう必然性が感じられませんでした。
まぁ、色恋の話なので、過去の経験からくる必然性は必要がない場合もあるにはあるでしょうが。
なんとなくここまで感想を話してきましたが、過去にあまり持てた経験のない、ブサイク男のヒガミみたいなものになってしまっているようで、ちょっと恐縮です。
ただ、一つだけ、僻みとかは関係なく言えると思うのは、二人が激しく恋に落ちる部分の描写が映画全体の時間に対して長すぎてバランスが悪くなってしまったことではないでしょうか。
ジェームズとダニーの恋が、あり得るかあり得ないかは横に置くとして、二人が強く結ばれていく過程を丁寧に、説得力をつけて描きすぎたため、別れた後の二人の描かれ方がの展開まで遅く、最後30分で駆け足にまとめなくてはならなくなったと感じました。
ダニーが海底でトラブルにあったのはたった数分間
映画紹介の中で、別れた二人はそれぞれ、絶体絶命の状況に置かれてしまう、となっていました。
が、明日をもしれない運命に陥ったのはジェームズだけ。
職業が職業ですし、ソマリアに行った目的も指名手配されている爆弾テロリストとの接触ですから、敵対組織に捕まって拘束される可能性はとても大きかったので、驚きはしませんが。
その間、ダニーが見舞われたトラブルは、ジェームズからまったく連絡がなく、そのせいで仕事にも集中しづらくなってしまったこと。
そして、もし海底で不慮のことが起こったら、という不安な気持ちが大きくなり、その気持を正直に話して心の拠り所にできたらと願っているジェームズと連絡が取れないことで、増大する不安に押しつぶされそうになっていること、でした。
言ってしまえばジェームズの嘘が、原因のような気がします。
技術者として、アフリカで安全な水を供給する技術を政府とタイアップして援助している、というのが、表向きの身分でした。
そして、ダニーにアフリカでそういった仕事をしていて、どれほど危険なのか、という説明はしていなかったように記憶しています。
ジェームズが熱くダニーに語ったのは、イスラムテロリストによる自爆テロについて、でした。
そのシーンで、ジェームが語った、自爆テロがおかしいこと、今すぐやめなければいけないことを世界に広めようとすることは、ダニーが証明しようとしている、太陽の光が届かない深海で生命の起源を証明するような発見ができるということを世界に広めようとすることと、根本は同じことである、という話は、まさに目からウロコでそういう考え方をするといいのか、と感心したほどです。
ただ、それはそれとして、映画の中に組み込みたい主張が多すぎる結果となり、うまくまとめきれないまま、終わってしまったのが、残念でした。
ダニーが海底で、潜水艦のトラブルに巻き込まれ、もしかするとそこから二度と海面に戻ってこれないのでは、という状況になったのは
。
確かにどうなってしまうのだろう、というハラハラ感はありました。
このまま海底にとどまらざるを得ない様になったとき、どう映画をまとめて納得の行くエンディングに持っていくのか、というスリルです。
が、結構あっけなくトラブルは解消され、無事に船に戻れそうな様子でフェイドアウトしていきました。
ジェームズのほうも、かなり絶望的な状況で、どうやったら無事に逃げ出すことができるのか、いい方法が思いつかないでいたら、実は米軍基地が近くにあって、というなんとも幸運な状況になってしまい、任務も果たせた上で、助かるような様子で終わっていきます。
恋愛サスペンスといえば、そうでしょうが、サスペンスというほど、手に汗握るドキドキハラハラ間はあまり感じなかった、というのが正直な感想です。
ラスト結末で二人は再会できたのか?
もちろん、映画の中で、二人は再会は果たしていません。
が、海底で必要なサンプルを採集したダニーは、トラブルがあったものの、なんとか解決して海面へ戻っていきましたし、ジェームズも自爆テロ集団の敵のアジトを軍隊に知らせることができ、おそらく攻撃が完了した後、無事に救助されるでしょう。
そうなれば、ふたりとも、はじめて会ったあのノルマンディーのホテルで再会をすることは可能だと思います。
まぁ、再会するだけであれば、ノルマンディーのホテルである必要はないのですが。
映画としてで再会のシーンを撮影するのであれば、ホテルでの再会、もしくはホテル近くの浜辺での再会は、外せないと思います。
ただ、ジェームズはダニーと再会をした後、どのような生活を送るつもりでしょうか?
まったく余計なお世話ですが、諜報員として今回の任務のような仕事を受けるには、ダニーという家族を手に入れた後は、リスクが大きすぎると思います。
今回のように敵対勢力に拉致されて連絡も取れない、となることを考えると、まず無理でしょう。
これが、ダニーが妊娠中に起こったり、子供が生まれてから起こったのでは、家族全員に対するストレスは計り知れません。
おそらく、ダニーとの関係を続けるのであれば、今のような最前線で活動する諜報員からは引退する必要があるでしょうし、ジェームズも引退する決断をすると思います。
更に加えて言うならば、ダニーの今後のキャリアのことを考えると、果たしてアフリカで生活するのは得策なのかな、という疑問があります。
間違いなく、ソマリアは不適当でしょう。
ジェームズがダニーに話していたナイロビ。ケニアの首都でアフリカの中で3番めに大きな街であり、多くの国際機関の本部、もしくはアフリカの代表部が存在しています。
治安は悪いと言われていますが、実際に調べてみると、ヨーロッパの国の大きな街とそれほど差は無さそうな危なさ。
まぁ、治安に関しては日本が良すぎるんでしょうけどね。
ここであれば、ダニーのキャリアを活かせる大学や研究機関もありそうです。
ただ、内陸の都市で海に面していないのが、ネックかも知れませんが。
もちろん僕は専門家でもなく、ダニーが研究している分野や就職事情などにも詳しくないので、自分が感じた印象で話してはいますが、アフリカに移り住んで研究を続ける事ができなくはないのかな、と思いました。
ただ、今までダニーが研究してきたであろうヨーロッパに近い北の海に関してより専門的で高度な研究をする必要があるならば、ヨーロッパのほうが何かと都合がいいと思われます。
なにはともあれ、二人が再会したあとのことをあれこれと想像するのは楽しかったですね。
自爆テロリストについて
最後に映画に出ていた自爆テロリストについて、触れておきたいと思います。
彼らは彼らで盲目的に信じる自分たちの正義を、他人の迷惑顧みずにまっすぐ突き進んでいるのでしょうが、この盲目的に信じる、というのが、問題なんでしょうね。
ジェームズも映画の中で言っていましたが、知識を与え、教育し、理解させてその考えを広めることこそが大切だと思います。
自爆テロで自分たちの祖国や民族の生活が良くなる、と本当に信じているから、自らが死ぬテロを行っているわけですし。
その自爆テロでは、なんの解決もなされない、ということがわかれば、別の方法を取らざるを得なくなりますから。
映画の中でソマリアの住人がテレビで反イスラム的な映像を見ていた事に気がついたサイーフが、その家の中にグレネードを投げ込むシーンは衝撃でした。
原理主義というのでしょう、昔ながらのイスラムの教えを頑なに守り、それに違反した人々には文字通り厳罰で臨む、という人物です。
いわゆる自分の主義主張を、他人にも強制的に守らせようとする人。
彼らが毛嫌いしている西側文化から言わせると、他人の自由に対して宗教を盾にして服従を強いるわけですから、人権無視として黙ってはいられないわけです。
だからこそ、どちらかが倒れるまで戦っているのでしょう。
ただ、僕にはこのような暴力的な原理主義者は、その大部分が、原理主義を唱えておけば、自分の暴力を正当化できる、ということで、信奉しているように感じられるのです。
とにかく暴れまわりたい、それによって取り締まりを受けたり、罰を受けたりはしたくない。
その恰好の正当化の理由付けとして原理主義を使用しているだけで、他に理由があれば、あっという間に乗り換えるだけの節操の無さを持っていると思うのです。
こういう人たちは戦争や革命などの混乱時はそれなりに仕える場面がある人材でしょうが、長い時間のスパンで見れば、面倒で厄介事を持ち込む人たちでしかないと思います。
まとめ
映画「世界の果ての鼓動」は、残念な映画になってしまったという印象でした。
監督もヴィム・ヴェンダースという実力のある名監督で、題材もとても興味が持てるのに、とあるレビューの言葉を借りるなら、
シェフも素材も超一流なのに、出てきた料理は拍子抜けするほどひどかった
という表現がぴったりでした。
もう少し展開のスピードとか、エピソードのバランスに改良が加えられれば、良い作品になると思います。
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