クイーンズ・ギャンビットでベスが孤児院で生活するようになってから毎日2種類の薬を常服用するようになりました。
そのうちの緑の薬を夜飲むことで、天井にチェス盤が見えるようになり、そこでチェスの勉強をして強くなっていきます。
大きくなって試合に出るようになっても、ピンチの時や決戦の前に薬を服用することで集中力を高め、勝利してきました。
ところでこの「緑の薬」、いったいどのような薬だったのでしょうか?
今回はこの「緑の薬」についていろいろと調べてみましたので、そちらを紹介していきます。
ベスが服用していた緑の薬「ザンゾラム(Xamzolam)」についての解説
孤児院で孤児たちに配られていた2種類の薬のうち、緑の薬は「ザンゾラム(Xamzolam)」という名前でした。
精神安定剤の一つとされ、はしゃぎ盛りの子供たちに飲ませることで、悪ふざけなどの大騒ぎをしないように、という目的で孤児院では孤児たちに服用させていました。
ではこの「ザンゾラム(Xamzolam)」という薬をより詳しく見ていくことにしましょう。
「ザンゾラム(Xamzolam)」は実在しない薬
この「ザンゾラム(Xamzolam)」という精神安定剤は、「クイーンズ・ギャンビット」の作品の中だけに登場する、実在しない薬です。
精神安定剤の歴史を調べると、1940年ごろに発見され登場しています。
20世紀半ばにはアメリカで市販されるようになり、「クイーンズ・ギャンビット」の中で描写されていたように一般家庭でも気軽に入手ができるようになっていました。
緑の薬「ザンゾラム」のモデルは「リブリウム」
「ザンゾラム」は実在しない薬ですが、この薬のモデルとなった実在の製品があります。
それは「リブリウム」
「クイーンズ・ギャンビット」で登場した「ザンゾラム」のように2トーンカラーの緑のカプセルで売り出されており、この形状の酷似が「ザンゾラム」の元ネタとなったのでは、という根拠になっているようです。
緑の薬「ザンゾラム」に関するトリビア紹介
「クイーンズ・ギャンビット」の主人公ベスにとって「ザンゾラム」はとても重要なアイテムとなっています。
「ザンゾラム」のおかげでチェスも強くなったように描かれていますし、逆に「ザンゾラム」がなかったら、ベスはあそこまで強くなれなれなかったのでしょうか?
続いてその点を含めて、この「ザンゾラム」について、更に詳しいトリビアの数々を紹介していくことにしましょう。
クイーンズギャンビッドのベスのように中毒になるのか?
「ザンゾラム」は「リブリウム」という精神安定剤をモデルにしている可能性が高いことを紹介しました。
ではその精神安定剤は、「クイーンズ・ギャンビッド」でベスが常時服用していたように中毒性があるのでしょうか?
その答えは
-
中毒性がある事例が報告されている
です。
精神安定剤は、人が不安に襲われたり気持ちが沈んだりした時に服用する薬です。
正常であれば、不安に襲われたり気持ちが沈んだりしても気持ちを切り替えたりして、自分で元に戻すことができますよね。
が、精神的に何らかの問題があると、それができなくなってしまい、自分で元に戻せないので薬の力を借りることになるわけです。
が、精神安定剤を服用し続けると、体が薬に対して耐性を持つようになってしまうことが分かっています。
つまり薬の効果が弱くなる、効果時間が短くなる、といった症状が出てくるのです。
そうなるとどうなるか?
精神的に不安定な患者は、薬を飲むことで安定していた状態の快適さを求め、より多くの薬を飲めばいいのではないか、と考えるようになります。
服用回数が一日一錠であったものが、朝夜に服用するようになり、それが日に三回に増え、1錠が2錠になり3錠になりと、こちらもだんだんと歯止めが利かなくなっていってしまうのでした。
もちろん、常にこのような異常な服用状態になるわけではありませんが、精神の病み方の度合いによっては、このような異常服用の状態になる危険性が高くなることは事例として報告されているのが事実です。
ベスのように幻影が見えるようになるのか?
ベスの服用状態は、そこまでひどくないように描かれていました。
どちらかといえば、天井に写るチェス盤を見るために服用していた描写がされていました。
が、考えようによっては不安を取り除くことで精神が統一され、頭の中で考えているチェスの動きが天井に映し出されたように感じていたのかもしれません。
最終回では精神を集中させることで、薬を服用せずとも、天井に映し出されたチェス盤を見て考えている描写がありました。
そこから考察するに、薬によってベスがチェスに強くなったといえなくもありませんが、ベスがチェスに強くなるために本当に必要だったのは、チェス以外のことを考えない、そして心配しない精神状態であったのではないでしょうか。
そしてその状態を手っ取り早く手に入れるために薬の効果を利用していただけ、と考えることができるのでした。
孤児院で孤児に服用させていた?
「クイーンズ・ギャンビット」では毎日のように精神安定剤を孤児院で孤児に服用させていました。
実はこれは、ドラマの舞台となった1960年代前後に実際に起きていた事例を元ネタにしています。
記録にはしっかりと孤児に対して精神安定剤を常用させていた、となっており、その理由は小さい子供たちによくある、仲間同士で興奮して大騒ぎし出す事のないように、というものでした。
ドラマで描かれていたように、孤児への服用はその後、禁止されるのですが、東欧やロシアの孤児院では孤児たちをより管理しやすいようにもっと強い薬、それこそ覚せい剤や麻薬等を常用させていた、という記録もあるほどでした。
女性を中心によく服用されていた
ドラマに登場した精神安定剤「ザンゾラム」は1960年代にアメリカで実在した「リブリウム」という薬でした。
この薬は薬局で簡単に購入ができており、その当時の主婦を中心に多くの女性が普通に服用していたのです。
その描写として、ドラマでは里子として引き取られたベスが、母親のアルマが「ザンゾラム」を薬戸棚に常備し、必要な時に服用していました。
普通の家庭の主婦が精神安定剤を常備し、服用していた背景には、その当時、女性が置かれていた社会的地位にあったのではないか、という説が有力です。
というのも、このころはまだ、夫は外で働いて給与を家にもって帰ってくるという社会的地位があり、その一方で主婦は家を守って子育てをする、という立場でしかありませんでした。
ですので、女性がどれだけ有能で能力があったとしても、それを発揮する場がほとんどないという時代だったのです。
そしてそのことで女性が内に悶々と不満を貯めることに結びつき、結果、男性よりも精神安定剤を服用する機会が多くなったのでした。
その後、アメリカでは主婦の精神安定剤の常用は社会問題になり、一回に処方する量を減らすという対応が取られました。
が、実際には回数制限が決められておらず、一回の処方量を少なくしても、頻繁に処方することで消費量を減らすことができなかった、という結果になったそうです。
「ザンゾラム」中毒のベスという設定の元ネタ
最後に主人公のベスが精神安定剤「ザンゾラム」の中毒になってしまう設定について、トリビア情報を紹介しておきましょう。
「クイーンズ・ギャンビット」は同じタイトルの小説が元ネタになっており、ウォルター・テヴィスがその作者です。
ウォルターは幼少期にリウマチ熱という大病を患い、その治療を行う際、大量のフェノバルビタールを服用しなくてはなりませんでした。
フェノバルビタールは、バルビツール酸系の抗てんかん薬で日本ではフェノバールの名で販売されています。
この薬は不眠症・不安の鎮静や、てんかんのけいれん発作に対して服用されていました。
現在では抗不安薬、睡眠薬といった用途に関しては、より安全なベンゾジアゼピン系の薬を処方するように置き換えられています。
この精神安定剤としての効用もあるフェノバルビタールの大量服用を強いられた時の恐怖と経験を主人公の設定に加えたかった、というのが、理由だったそうです。
まとめ
「クイーンズ・ギャンビット」で登場し、主人公のベスが中毒になっているような描かれ方をしていた緑の薬「ザンゾラム」
その正体はドラマの舞台となった1960年代、実際には1960年前後にアメリカで実用化され、商品化された「リブリウム」がモデルとなっている精神安定剤でした。
精神安定剤全てに中毒性があるのではなさそうですが、常用していると耐性が付いてしまうことが認められており、そのために同じ頻度、服用量では効きが悪くなるため、より多くの薬を摂取してしまう弊害が報告されています。
このベスと薬依存という設定は、ドラマの原作となった同タイトルの小説を執筆した作者が、幼少期に大病を患った際に大量に服用しなくてはならなくなった薬の経験が元になっています。
そしてドラマの最終回では、ベスは薬に頼らずに世界チャンピオンのボロゴフに勝利したことから、薬を服用したことで強くなったというより、薬を服用することでチェスに集中することができる状態になり、そのために強くなれたと考えたほうが良いことが読み取れるのでした。
つまりチェス以外のベスを取り巻く環境、対人関係、経済状態、そしてチェス対戦時には対戦相手への恐れなどによって集中ができないのを、薬を使うことでシャットアウトし、対戦に没頭していたのでしょう。
そして薬を使わずに一切の雑念を払しょくすることができるのであれば、ベスが強くなるために「緑の薬」を服用する必要がないといいたかったのでしょう。
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