ネタバレ感想 1 猫と一緒にどん底から生活を取り戻す
ホームレスで薬中のストリートミュージシャンが、薬から抜け出すチャンスを与えられ、
更生するわけですが、猫のボブが現れたことによって、自分が守らなければならない存在
のお陰で強くなれたところがとても心温まる映画でした。
ジェームズ自身がどうしようもない状態ではありましたが、それでも守らない存在ができた
ことで、自分がしっかりしないとダメだ、という一本の糸のようなものが気持ちの中で
常に張っていることが幸いしたのでしょう。
また、ストリートパフォーマンスでも猫を連れているというだけで、他との差別化がはかれ、
より多くの集客ができたので、まさにジェームズにとっては幸運の猫だったわけです。
ジェームズ一人ならただのいかがわしいホームレスですが、ボブと一緒にいるだけでまわり
の人が、特に子供連れの家族が笑顔で寄ってくるところに、ちょっと映画の演出があるのでは、
と思ってしましました。
それにジェームズが演奏している最中、じっと座って聞いているだけの猫がいることで
それほど多くの人を集めることができるのか、こっちもちょっと不思議に思いましたけど。
ジェームズがストリートパフォーマンスを禁止されてしまう騒動の発端となった犬を連れた
嫌がらせをした男性などは、ペットを連れているからといって近寄りたい、と思えるような
人相ではなかったですし、ジェームズもホームレス時代の外見から取り立てて何も変わって
いないのに、ボブだけで本当にああなるのでしょうか?
映画にはボブが本人役で出ていますが、映画全編で本当に可愛い猫だと思ってしまいます
ので、ストリートパフォーマンスのときは本当に多くの集客ができたのかもしれません。
しかし、最初のジェームズのホームレスの生活はとても悲惨でした。
あの生活から抜け出す方法も見えないのが、一番気を重くさせます。
実際、友人のバズは、お金をねだりにジェームズのもとに来ましたが、食料を買うためと
言って渡したはずのお金で薬を買ったように思えます。
あんなふうになってまで、一番の優先順位は食料でもなく、泊まる場所でもなく、やはり
薬になってしまうのが、悲しいですし恐ろしいなと思いました。
ネタバレ感想 2 ヘロイン中毒からの更生に使用されるメサドンとは
全体的に明るいサクセスストーリーではありますが、イギリスの底辺というか、ホームレスで
薬物中毒の人間が多く出てくる、闇の部分をフォーカスした映画でもあったと思います。
誰もがあんな悲惨な生活から足を洗いたいと思っているものの、小金を手に入れると
いの一番に手に入れるものが麻薬であることが、とても悲しく、また、更生がとても大変な
ことがわかりました。
また、ジェームズのように政府の更生プログラムに参加できたとしても、抜け出すのは
容易ではありません。
プログラムによって用意された住まいは、どうしても住民レベルの高いエリアではあり
ませんし、そうなるとまわりには中毒者や売人が多くなってしまいます。
辞めたいのに辞めにくい環境に舞い戻ってしまうわけで、そこで薬物を断ち切るのは
相当な精神力と心が弱くなりそうになった時に頼るべき存在が必要でしょう。
そういう意味でジェームズがボブに出会い、ベティに出会ったのは本当に幸運だったと思います。
日本ではヘロインなどの麻薬はあまり有名ではないので、その更生法も知られていないと
思います。少なくとも、僕はこの映画を見るまで全く知りませんでした。
過去に聞いたことのない薬品メサドン。鎮痛剤ではありますが、調べてみるとヘロイン
依存症の管理として使われるそうです。ヘロインへの欲求を減少させる働きがある
そうで、この薬を定期的に服用してヘロインの中毒状態から脱するのが映画で取られて
いる更生法です。
しかし、その一方でヘロインよりも抜け出すのが難しいという側面もあり、映画でも
ジェームズが最後の段階でメサドンからの症状を抜け出すのに一苦労していました。
ネタバレ感想 3 ホームレス支援の雑誌、ビッグイシュー
もう一つ気になったのが、ストリートパフォーマンスを禁止されたジェームズが頼った
ビッグイシューという雑誌です。
恥ずかしながら全く知りませんでしたので、ちょこっと調べてみました。
ビッグイシューとはホームレス支援のために1991年にイギリスで発行された雑誌で、
いまでは世界中にその活動が広がり、日本でも行われています。
販売登録したホームレスが雑誌を販売し、売上の一部が販売者に入る仕組みで、2017年
8月現在、日本では雑誌が350円、販売者の収入が半分以上の180円になります。
一日10冊から20冊売ることができれば2000円から4000円ほどになり、販売数が増えれば
路上生活から十分に抜け出せます。
ビッグイシュー日本が出しているガイドラインでは一日20冊から25冊販売して路上生活
から抜け出す第一段階、次に25冊から30冊販売し、毎日1000円程度を貯金して敷金を
蓄え、7~8ヶ月でアパートを借りる第二段階、そして住所を持った後に、さらなる就職
活動をする第三段階という目安を設けて、支援をしています。
雑誌の内容を調べてみると、イギリスではホームレス支援だけでなく、エンターテイメント
関連の情報を掲載することで大成功を納めて、始まっていますし、日本版も普通のメディア
では取り扱われないような特集が組み込まれているようで、とても興味深く感じました。
ただし内容的に反原発、反自民、反安倍政権、反米軍基地のスタンスになっているようです。
映画を見ていてもホームレスや薬物中毒者に対する支援について考えさせられるシーンが
いくつかありました。
例えばヴァルがジェームズと初めて出会ったシーンで、ジェームズが後悔と自責の念で
泣いて謝罪していますが、そういう場面をいつも見ているせいかヴァルには響いていません
でした。
それだけ薬物から抜け出すのが大変ということでしょうが、過去にジェームズのように
反省してヴァルの助けを受けたとしても、結局は薬物中毒から抜け出せなかった人が
どれだけ多かったか、ということだと思います。
次に思い知らされたのはバズの死でした。上手く生活が回り始めたジェームズに助けを
求めるバズでしたが、ジェームズは助けようとして逆に薬の生活に引き戻されてしまう
ことを恐れ、食料を買うためのお金だけ渡します。
しかしバズは、そのお金で薬を買い、過剰摂取でなくなるのですが、助けるために渡した
はずのお金が助けになっていないということを痛烈に感じました。
同じくジェームズがストリートパフォーマンスもできず、ビッグイシューを販売すること
もできない時期に、ボランティアによる炊き出しで食料をもらうシーンが有りました。
ふと考えると、そうやってお金を使わずに食料を貰ったということは、残ったお金で
何をするのだろうか、ということです。
翌日の食料のために取っておけるほどの分別があれば、そこまで落ちぶれてないでしょう。
全員とはいいませんが、そうやって使わずに済んだお金で薬を買ってしまう人達もいる
のではないでしょうか。
支援運動として、ただ恵んであげることはとてもかんたんですが、それが自立につながるか
というと、決してそうではありません。支援が受ける側にとっては依存になるという
危険性があるという現実に気が付かされました。
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