アニメ「ダンジョン飯」でマルシルがナイトメアに襲われ、睡眠中に悪夢を見ることで精神的にダメージを受けてしまいます。
対処法として、夢の中に他の仲間が入り込み、恐れを克服させることで術中から抜け出させる、とのことですが、ナイトメア本体を退治すればそれで終わるわけではないようですね。
おそらく、術中にハマってしまった被害者はナイトメア本体が退治されても、引き続き悪夢を見続けるのでしょう。
ところで「ダンジョン飯」のナイトメアは、これまで考えてこられたナイトメアの姿かたちとは極端にかけ離れた姿をしていました。
一番良く知られる姿は、馬の姿をした悪魔、ではないでしょうか?
今回はナイトメアの元ネタについての解説と、「ダンジョン飯」の世界でなぜ貝の姿になったのかについての考察をしていきたいと思います。
アニメダンジョン飯のナイトメアの元ネタ解説!
ナイトメアという悪夢を見させて犠牲者を消耗させる魔物は、調べてみるとかなりの数が存在します。
日本にも悪夢を見させる妖怪の存在が確認できます。
「平家物語」において平清盛が危篤になった際、妻であった平時子が見た悪夢では、地獄の番人と言われる牛頭馬頭鬼が、清盛を閻魔庁から迎えに来たのでした。
その際、牛頭馬頭鬼は彼ら自身が悪夢として人の夢に登場する存在である、と説明されており、つまりは彼らによって人は悪夢を見る、ということになるのでした。
また、江戸時代の随筆家「為永春水」の作品の中で、悪夢をもたらす鬼神「臨月天光」の名前を、悪夢よけの呪いとして3度叫ぶことが記されています。
これは、鬼神の名前を呼ぶことで正体を見破り、悪夢を吉夢に代えるという考えがあったことを示しているとされているのでした。
その他にも
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・イギリスの伝承に登場する、怪しげな老婆姿の妖怪「ハッグ」
・ギリシャ神話に登場するユマ「エムブーサ」
・ドイツに伝承されている「アルプ」
・ユダヤ教において悪夢を操る悪魔である「リリス」や「リリン」
など、世界中に存在するのでした。
そんな中でも馬の姿をしたナイトメアが一番有名ではないでしょうか。
そんなナイトメアの元ネタを紹介していくことにしましょう。
ナイトメアの元ネタは夢魔という下級悪魔
ナイトメアはもともと、夢魔と呼ばれる、古代ローマ神話から発生し、その後キリスト教にも取り入れられた悪魔の一種でした。
古代ローマ神話の夢魔は、インキュバスといい、夜な夜な夢の中に現れて性交を行うとされる下級の悪魔として認識されていたのです。
その後、キリスト教がヨーロッパ世界に広まるにつれ、このインキュバスという悪魔もキリスト教の中に取り込まれていきました。
というのも、キリスト教では婚前性交はタブーとされていたため、結婚前の女性が父親が不明な子供を身ごもった際、インキュバスを便利な言い訳に使ったそうです。
このようなインキュバスの派生として、悪夢を見させる悪魔の存在も語られるようになりました。
それが、悪夢という意味の英単語「ナイトメア」から、悪夢を見させる悪魔の名前として使われるようになったのです。
「メア」は英語で「牝馬」という意味の単語
悪夢を見させる悪魔の存在は、その英単語がきっかけだと思われます。
「ナイトメア」は夜を意味する「ナイト」と「メア」の2つの言葉から作られた単語。
この「メア」を調べてみると、「牝馬」であることがわかります。
そこから、「ナイトメア」の姿が馬の姿をしているとされたのですが、じつはナイトメアの姿が馬の姿であるとして広めたのは、一人の絵画家の作品から、でした。
1781年にスイス人画家ヨハン・ハインリヒ・フュースリーが『夢魔』という絵画を発表しました。
それはベッド上で夢魔にのしかかられうなされる女性を、馬がカーテン越しに覗き込むという構図で描かれた絵でした。
この絵画が発表された後、次々と複製されるようになります。
そして「Nightmare(ナイトメア)」が「夜の牝馬」という認識が定着する原因になったと言われているのでした。
「メア」という言葉はMareは古英語のmera, mareに由来する語だそうです。
その意味は(女性の)霊、悪魔を意味。
更に語源を遡ると、ゲルマン祖語 maro、印欧祖語 mor-, mer- に行き着きます。
それらの意味は「すりつぶす、傷つける」。
或いは更に直接的に「死」を意味する語であったそうです。
これらのことから、Night-mareとは、語源的には「夜に現れる、恐るべきもの」という意味となり、悪魔そのものと考えられるようになったのでした。。
馬でなく貝の理由も考察
「ダンジョン飯」の世界でナイトメアが馬ではなく、貝となった理由について考察していきたいと思います。
一般的にファンタジー作品において、ネイトメアが馬の姿をしている理由は、「メア」が牝馬であると思われているから。
ですが、厳密には馬とは全く関係がありません。
そのため、ナイトメアを馬として描く必要はなくなります。
また、本作品の主題である「食材としての魔物」において、馬肉はすでにケルピーで扱っており、再度、馬を扱うのは、避けたいという作者や編集側の移行があったのではないでしょうか。
ではなぜ貝に姿になったのでしょう?
食材とする場合、精霊のような、物質的に存在しないものでは調理はできません。
化食可能な部位を持つ存在としないといけない上、悪夢を見させるという特技を持つ以上、犠牲者が寝ている最中に、犠牲者に接近できるような形状でないといけません。
かといって、他の仲間の目があるので、大きい存在ではまずい。
こういった条件に合う、食材として使いやすい姿を考えた際、枕に忍び込んで犠牲者に悪夢を見せる、というアイデアが出てきたのでしょう。
そして、食材として使え、虫サイズでも霊的な存在でもないものとして、貝が選ばれたのではないでしょうか。
ちなみにライオスの魔物知識によると、ナイトメアは貝の仲間ではなく、竜の仲間となるそうです。
まとめ
アニメ「ダンジョン飯」において登場したナイトメアの元ネタの紹介と、なぜかいの姿になったのかについての考察をしてみました。
ナイトメアは古く、古代ローマ時代に存在が考えられていた悪魔で、もともとは女性に淫夢を見させ、その結果悪魔の赤子を産まさせる下級悪魔インキュバスの仲間と考えられてきました。
淫夢を見させる代わりに悪夢を見させる悪魔として。
馬の姿をしていることが多いのですが、それはナイトメアの「メア」の部分が牝馬という意味の単語と同じであるから。
しかし実際には馬とは全く関係がなく、古英語で「Mera」は悪魔のことを指し、悪夢というナイトメアという単語が、悪夢を見させる悪魔の名前となっていったのです。
ダンジョン飯では馬ではなく貝として描かれていますが、これはすでにケルピーで馬という食材を扱ったことから、同じ食材を使いたくないという思惑があったのでしょう。
さらに、悪夢を見させる方法として色々考えた結果、枕の中に潜むことができる姿形を思いつき、これまでに食材として登場してきたことのない、貝が選ばれたと考えられます。
コメント
貝の姿をしているのは、蜃と呼ばれる中国の伝説の生き物が元ネタと思われます。蜃の姿は龍である説とハマグリである説があるようです。
ななしさん、コメント、ありがとうございます!
ご指摘を受け、更に詳しく調べてみたら本当に蜃気楼と関係があることがわかって、とてもおもしろかったです!
更に一つ、知識が増えました。ありがとうございました!