映画ファーストマンはニール・アームストロングによる人類初の月面着陸&歩行を中心とした物語です。
2時間以上に及ぶ映画ですが、なかなか全てを詳しく説明することは不可能で、背景がわかっていることを前提に話が進んでいる部分もあったと感じました。
まぁ、ボク自身が知らなかっただけ、ということもありますが…。
映画を見終わってから、いろいろと疑問や知りたいことがありましたので、調べてわかったことを紹介したいと思います。
また、映画に関する個人的な感想なども別の記事にまとめてありますので、興味がありましたら参考にしてください。
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映画の舞台となった時代背景
宇宙開発戦争の発端理由
ニール・アームストロングが月に行くことになった理由を解説するには、1960年代のアメリカとソビエトの間で起こった宇宙開発戦争について、説明しなくてはなりません。
ご存知のとおり、第2時世界大戦後、世界はアメリカを中心とする資本主義圏とソビエトを中心とする共産主義圏に分かれて争うことになります。
これが俗に言う「冷戦時代」ですが、お互いが相手よりも優れていることを誇示するために、軍拡を中心に張り合っていました。
そんな中、第2時世界大戦末期に開発されていたミサイル技術を応用して、人類を宇宙へ送ることが計画されます。
近年でも北朝鮮が盛んに行ったミサイル発射実験の目的を宇宙へ打ち上げられるロケットを開発しているから、という公式発表をしていたことで有名ですが、基本的に、打ち上げるロケットの先に人や人工衛星が乗せていれば、宇宙ロケット、爆弾が乗せてあればミサイル(大陸間弾道弾)ということになります。
つまり、ロケットを宇宙に打ち上げるということは、全てではないにしてもその技術のある程度は、自分たちの軍備力の誇示になるというわけなのです。
また、誰も成し遂げたことのない宇宙への旅を最初に行ったという歴史的快挙を成し遂げることで、自国や主義、民族の優位性を証明したい、という欲望もありました。
こうして通常の戦争以外の宇宙開発という分野でも、アメリカとソビエトの競争が始まったわけです。
宇宙開発競争の展開と決着
こうして、アメリカとソビエトはこぞって宇宙開発にのめり込んでいくわけですが、映画でも指摘されていたように、当初はソビエトが1歩も2歩もリードしていました。
世界で最初に人工衛星を打ち上げに成功させたのもソビエトですし、初めて人を宇宙に送ったのもソビエトでした。
その理由は、というとアメリカとソビエトの社会体制の差にあると思われます。
共産主義は、簡単にいうと、代表者たちが今後、どの分野にどれくらい力を注いで開発や発展をさせていくか、ということを決められる計画経済という政策をとっていました。
この経済政策は、国が一つとなって力をつけたい産業に予算や人力を注ぎ込むことができるという利点があります。
つまり他を犠牲にしてでも、という政策を取りやすいわけです。
力のある政治家が、これ、と決めた政策を国としてやっていけるわけですから。
一方で資本主義はそれを決めるプロセスに時間がかかります。
例えば宇宙開発に力を注ぎたい、となれば、世論をまとめ、議会をその方向に導く必要がある、という具合です。
また、成功までの過程でも、ソビエトがとった共産主義体制では、情報操作がしやすく、予算が無駄になってしまった失敗などを隠しやすいという点があります。
とくに、代表者の権力が強ければ強いほど、それは容易になるでしょう。
ところがアメリカでは、ミッションの過程を逐一マスコミを通じて国民に知らせないといけません。
もちろん、都合の悪い情報を隠すという行為は全くしていなかったわけではないでしょうが、ソビエトと比べれば、それはむつかしかったのです。
ですので、映画内でもニールがミッションの失敗の後、マスコミの前での記者会見の場で質問に答えなければならないシーンが有りました。
また、宇宙開発反対の集会運動のシーンも映画内で映し出されていました。
このように、アメリカでは反対派がいた場合、それを説得、もしくは納得、あるいは黙らせるだけの正当性などを見せつけなければならず、そのためにかかる時間や労力、費用といった、本来の宇宙開発とは関係ないものに費やさなくてはならない部分があったためにソビエトにリードを許したわけです。
さらに、個人的な印象を加えると、その当時、アメリカの中でソビエトの国力全てを過小評価する風潮もあったように感じることも無関係とは言えないと思います。
宇宙開発戦争の結果
ソビエトに1度だけでなく2度までも先んじられたアメリカは、本気になります。
NASAを設立して宇宙開発の部門を一本化し、そこに人や金を集めて開発・訓練を行うのでした。
その様子は映画でも映し出されますので、説明は必要ないでしょう。
着実にマーキュリー計画、ジェミニ計画、そしてアポロ計画と進めていきます。
一方でソビエトは、というと、あまり詳しい資料がのこっていないようですが、ソビエト国内で宇宙開発を一本化することに失敗したようでした。
個々の技術者や研究者が、共産党の有力者に個々で近づいていっては、自分の立案した計画を政策として取り上げるように働きかけていたようです。
これによってせっかくの力が分散し、宇宙開発戦争当初の優位性を失い、月面着陸の段階においてアメリカに負けてしまうのでした。
簡単にいえば、マーキュリー計画の段階ではアメリカはソビエトを追っかけており、ジェミニ計画で追いつきます。
そしてアポロ計画の段階でアメリカは成功させ、ソビエトは失敗に終わるという結果となり、宇宙開発戦争はアメリカの勝利で終わることになるのでした。
映画に出てくるミッションや機体のトリビア説明
やはり小説が元になっていることもあり、話に対する説明があまり詳しくなされていないという印象を持ちました。
特に、前後のことをある程度知らないと話についていけない物もありましたので、映画を見てボクが疑問に思ったことを跡で調べてみました。
その情報を紹介しておきます。
X15 高高度極超音速実験機
映画の冒頭でニールが乗っていたテスト飛行機です。
ジェットエンジンではなくロケットエンジンを搭載し、高高度まで上昇できる能力と極超音速のスピードを出せます。
そのスピード下での空力特性や熱力学的影響などの研究がなされ、その結果によってついにはスペースシャトルの開発まで貢献したという機体です。
ちなみにジェットエンジンとロケットエンジンの違いはなんだかわかりますか?
ジェットエンジンが外部から空気を取り入れてジェットを発生させて進むエンジンです。
これだけだとピンとこないかもしれませんね。
もう少しわかりやすく説明すると、速度を持った流体が小さな孔から空間中にほぼ一方向の流れとなって噴出する現象のことで、ノズルから勢いよく吹き出す水などがこれに当たります。
エンジンとして使う場合、取り込んだ空気と燃料を化学反応させ、熱エネルギーを作り出して推進力を得るのが一般的です。
一方でロケットエンジンは燃料の化学反応による高温、高圧のガスを噴射することで推進力を得るエンジンです。
ジェットエンジンと一緒じゃないか、と思うかもしれませんが、ロケットエンジンは燃料を化学反応させるために必要な酸素も燃料として積み込まれている点です。
ジェントエンジンに比べて短時間で大きな力が得られるうえ、空気のない宇宙空間や水中でも推進力を得ることができるという利点があります。
ただし、長時間の連続使用ができないという欠点があるので、利用できる場面は限られてしまうでしょう。
ジェミニ計画
アポロ計画は有名ですが、ジェミニ計画って何?と思う人もいるかも知れません。
ジェミニ計画は宇宙に人を送り込むためのマーキュリー計画と月面着陸を行うアポロ計画のあいだにあった計画で、月面着陸を成功させるために必要な、
・月に行って帰ってくるまでのに必要とされる期間の宇宙滞在
・宇宙遊泳による船外活動
・ランデブーとドッキングを実行する場合に必要となる起動操作の技術
を確立させることを目的としたものでした。
ジェミニとはラテン語で「双子」を意味しますが、それはこの計画に使われたジェミニ宇宙船が搭乗員2名だったことが由来しています。
ニール・アームストロングはこのジェミニ計画の宇宙飛行士に選抜された9人のうちの一人で、第二時選抜グループはいります。
第一時選抜グループからマーキュリー計画を経験した7人のうちの3名。
そして第三時選抜グループの14名のうち5名がジェミニ計画でジェミニ宇宙船に搭乗しました。
アジェナ標的機
アジェナ標的機は軌道上におけるランデブーやドッキングの技術開発に用いられた無人宇宙船です。
もともと偵察衛星として開発されたものにドッキングユニットを増設して技術試験衛星にしたものです。
T-38 墜落事故
ニールの友人であるエリオット・シー船長とそのパートナーのチャールズ・バセット飛行士がジェミニ9号の打ち上げの準備とした訓練で練習機が墜落して命を落としてしまった事故です。
雨、雪、霧といった悪天候の中で行われた訓練だったため着陸に失敗し、空港を通り過ぎてしまいました。
再度着陸を行おうしましたが、高度150m~180mという異常な低空飛行で旋回している事に気が付き、また、目標の滑走路へも方角的にずれていました。
安全確保のためテスト機は上昇をしようとしましたが、ときすでに遅く、空港近くビルの屋上に接触、右翼とランディングギアを失い、駐車場に墜落したのです。
すぐに墜落原因の調査がなされました。
機体、天候、管制体制、パイロットの健康など詳しく調べ上げられ、その結果、パイロットであったエリオット・シーの操縦ミスと断定されています。
アポロ月着陸船
月面着陸の際に手に汗握る、少なくなっていく燃料残高を読み上げながらの着陸シーン。
最後の最後でこんなハプニングが、と思いましたが、実はあの燃料残高計測器、不具合を犯していたそうです。
振動によって燃料タンク内の燃料が激しく揺れ、実際に残っていた燃料よりも少ない数値を計測して表示していたのでした。
このことは、地球帰還後の調査によって見つかっており、次のミッションから燃料タンク内に燃料の揺れ動きを抑える抑流板が設置されました。
映画は実話で完全なノンフィクションか?
映画は「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」というジェームズ・R・ハンセンが記したニール・アームストロングの伝記を原作としています。
ニール・アームストロングは一連の宇宙開発時代の偉業をあまり語りたがりませんでした。
この伝記本もなんと2005年にようやく発行することを許可しています。
それまで多くの作家が、ニールに伝記本の執筆を持ちかけますが、全て断っていたのでした。
ジェームズ・R・ハンセンがニールの伝記本を執筆できたのは、彼が他に書いた伝記をニールが読んで、これであれば、と許可を与えたそうです。
そこまでして発行にこぎつけたものですので、伝記の内容はきちんとしたものでないといけません。
そしてこの映画はそんな伝記を原作としていますので、ほぼ作り事のない、ノンフィクションと言ってよい内容に仕上がっています。
ニールの二人の息子、リックとマークは、映画で描かれているニールとジャネットは、記憶している彼らの両親とそっくりだ、とコメントしているほどです。
また、ジェミニ計画で宇宙にいったニールとNASAとの交信をジャネットが自宅の居間で聞いており、事故が発生した際にNASAがジャネットが聞いているスピーカーを切ったのも本当に起こったことでした。
しかも、その後、ジャネットがNASAに乗り込んで行ったのも彼女が本当にとった行動です。
監督のデミアン・チャゼル、脚本家のジョシュ・シンガー、主演のライアン・ゴズリングのニールとその家族、彼の関わったミッションへのリサーチはとても念入りに行われており、知り得る限りの実際に起ったことを映画に盛り込んだそうです。
もちろん、時間の関係で、アメリカ本土で物議を醸した月面でのアメリカ国旗の掲揚場面がないなどの描写を省かないといけないものもありますし、月に亡くした娘、カレンのブレスレットを月のクレーターに落としてきたことはノンフィクションかフィクションかは亡くなったニールのみが知ることでしょう。
まとめ
先にも書きましたが、小説が元になっている実話を映画にしていますので、どうしても背景などの説明が必要なときに、自然な形でセリフに入れて説明するといった方法しか取れません。
あまり説明が長いと、作品に入り込めなくなりますし、なさすぎるとストーリーがわからなくなってしまいます。
そういったハンディを持ってしまった映画ですので、ボクなどはニールが月に行くまでにに2度も宇宙に行ったことがあったことに戸惑いを覚えてしまいました。
ある程度の知識がないと映画にのめり込んで楽しむことができないかもしれません。
そんなハンディがあったとしても、ニールと家族のジェミニ計画からアポロ計画に至る頃までの交流やNASAに対する世間の対応など、興味深く見られた部分は多かったです。
背景を調べた後、またもう一度見直すと、また違ったテイストが味わえそうな映画でした。
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