今年の第91回アカデミーの最優秀作品賞を受賞した映画「グリーンブック」
1962年という黒人差別が真っ只中の時代に、とくに黒人に対しての迫害がひどかった南部に黒人が白人をドライバーに雇って旅をする、というお話です。
内容はとても心温まるお話で、映画内のストーリーだけで言えば、ハッピーエンドで終わっています。
そんな映画「グリーンブック」の撮影秘話とトリビアを調べましたので、紹介していきたいと思います。
撮影秘話とトリビア その1 ビゴ・モーテンセンに関して
イタリア人家族のおもてなし
撮影が始まる前、ビゴ・モーテンセンはニック・バレロンガと彼の家族に食事に招待されました。
ところが、これが想像を超えて6時間にも及ぶ苦行になってしまったのです。
その頃まだビゴは体重を増やしておらず、胃袋は小さいままでした。
ニックとその家族のもてなしはビゴにどんどんと食事を出してきて、皿が空になったら新しいものを持ってくるほどのもてなしだったそうです。
完全に中国式。
食事を残してしまうと、美味しくなかったのだろうとニックの家族に気を使わせると心配したビゴは、出されて料理をすべて平らげたのだとか。
ようやく家を辞し、車に戻ってホテルに戻ろうとしますが、少し走ったところで車を止め、ベルトを緩めて座席を倒して休まざるを得ませんでした。
あまりの苦しさにウンウンうなりながら1時間ほど、その場にいたそうです。
ビゴ・モーテンセンは何kg太った?
映画ではもはや彼自身の面影すらなかったビゴ・モーテンセン。
言われるまでボクも彼が主演をしていることに気が付かなかったほど、変わり果てた姿になっていましたが、もちろんトニー・リップを演じるために体重を増やして撮影に望むための増量でした。
その方法は、主にイタリア料理、パスタやビザをガンガン食べ、前菜もデザートも欠かさず食べたそうです。そして食事をした後、すぐに寝てしまう、そういう生活を続けて10kg以上体重を増やしました。一説には14kgという情報も出ています。
もちろん健康にはよくありませんし、撮影が終わったら元の体型に戻したそうですが、増やすほうが減らすよりも簡単だった、とインタビューで答えています。
食事との戦いだった撮影の日々
エピソード その1
トニーがドクター・シャーリーに出会う前に、ダイニングレストランで太っちょポーリーとホットドッグの大食い競争をしたシーンがあります。
太っちょポーリーを演じたのはジョニー・ウィリアムスという役者ですが、ニック・バレロンガの証言によると、ジョニーは実際にトニーと一緒にホットドッグを食べたことがあるそうです。
また、この大食い競争の際、スタッフは口に入れたホットドッグを吐き出す(撮影がOKになるまでどれだけ食べることになるか、わからないため)ようにバケツを用意していましたが、ビゴ・モーテンセンはすべて平らげ、結局撮影が終了したときには15個のホットドッグを食べていたのでした。
エピソード その2
ビゴ・モーテンセンのシーンは多くの食事をするシーンが含まれていたため、映画の撮影につきものの、休憩中につまめる間食に全く触れる必要がなかったそうです。
それよりも、昼食休憩中に専用のトレーラーに戻って横になり、ズボンのボタンを緩める時間のほうが大切だったと述べています。
エピソード その3
ビゴ・モーテンセンが映画の中でホテルで休みながら1枚の大きなピザをまるまる食べるシーンがありますが、これはニック・バレロンガの父トニーが、本当にやっていた食べ方でした。
ニックよりその話を聞いたビゴが是非映画でもそのシーンを入れるべきだ、と主張したのです。
監督のピーター・ファレリーはすでに食事や食べ方に関して面白いシーンは十分にあったと思いましたが、ビゴの主張を取り入れて撮影しました。
最終的に編集もクリアし、本作に登場することになるのですが、それを知ったスタッフは大笑いしたそうです。
完璧主義者のビゴ・モーテンセン
エピソード その1
ビゴ・モーテンセンの完璧主義者ぶりについてピーター・ファレリー監督が明かしたのですが、映画の冒頭で、ナイトクラブの仕事を終え、帰宅したトニーが冷蔵庫から牛乳を出して飲むシーン。
このシーンだけで3回の撮り直しをしたそうです。
その理由は、ビゴにとって納得のいく牛乳瓶の持ち方ができなかったからだとか。
エピソード その2
衣装担当をしたベッツィー・ヘイマンはビゴ・モーテンセンの衣装のサイズを小さめにして、ピチピチ感を出すようにしたと話しています。
というのも、その当時のトニーの経済状態は貧しく、新しいスーツを買う余裕がなかったため、実際に昔の小さくなったスーツを着ていたことを考慮したからでした。
また、1960年代には男性のズボンをお腹の下ではなく腰の部分で履いていたのをきちんと表現したかったから、という理由もあったそうです。
衣装の狙いについて話を聞いたビゴはトニーとして演じていて、意識して彼が歩く際には頻繁にズボンをずりあげていたそうです(無意識でもずりあげたくなる長さですが)。
そういう動きをビゴがするたびに、狙い通りだ、と感じたと話していました。
エピソード その3
ビゴ・モーテンセンはトニー・リップのイタリアなまりの話し方を自分のものにするために、トニーの出演していたテレビドラマ「ソプラノ 哀愁のマフィア」を事あるごとに聞き、話し方を体に覚えさせていたそうです。
その他のエピソード
エピソード その1
トニーとドクター・シャーリーが石を盗んだかどうかで揉めるシーンが有りました。
マハーシャラ・アリの証言によると、台本に関して初めて監督、マハーシャラ・アリ、ビゴ・モーテンセンで夕食をしながら話し合うということで集まったとき、ビゴがピーター・ファレリーに「映画で使うのにピッタリの翡翠の石を見つけてきた!」と興奮して見せたそうです。
実際にその石がそのまま映画で使われたのでした。
エピソード その2
この映画「グリーンブック」は「カラスのラリー」に捧げられた作品でもあります。
この「カラスのラリー」は撮影が行われた場所をネグラとしていましたが、ある日、車に轢かれて亡くなってしまったそうです。
そのことをひどく気にしたビゴ・モーテンセンによって「ラリー」に対する哀悼作品となったのです。
撮影秘話とトリビア その2 マハーシャラ・アリに関して
『私のようにショパンを弾ける者はいない』
コンサート旅行の最後、ダイニングエリアでの食事を拒否されたことから演奏を拒否したドクター・シャーリーとトニーが黒人たちが集まるバーで食事をし、その後ピアノ演奏をしたシーンですが、これがフレデリック・ショパンによって作曲された練習曲作品25-11、別名「木枯らし」です。
ドクター・シャーリーがトニーに自分の生い立ちや自分の音楽に対して、ホテルのロビーで酒を交わしながら話していたときに行ったセリフ、「誰も私のようにショパンを弾けない」といったことを証明するために、あのバーで披露しました。
このショパンの「木枯らし」ですが、ドイツのミュンヘンにある楽譜の原典版の出版に関しては世界的に有名は出版社ヘレンが出している演奏難易度分類では最高のレベル9「非常に難しい」に分類される曲です。
ちなみにどのくらい難しいかが分かる動画がありましたので、参考までに紹介しておきますね。
マハーシャラ・アリの影武者
ドクター・シャーリー役を演じたマハーシャラ・アリですが、もちろんすべてのピアノ演奏を彼がしたわけではありません。
映画の音楽を担当したクリス・バワーズがマハーシャラの演奏影武者を演じました。
クリスは4歳から音楽を始め、これまでにいくつかの映画の音楽担当を経験していますが、この「グリーンブック」が、彼が担当したはじめてのメジャー作品になります。
ドクター・シャーリーのようにクリスもスタインウェイ製の職人の手によって作られたピアノを愛用しています。
その理由は「他のものでは出ないその音色」のためだとか。
ドクター・シャーリーの遺族
この映画はトニー・リップの息子ニック・バレロンガのアイデアと彼の記憶で作成されました。
ニックが覚えているトニーとドクター・シャーリーの関係、そしてトニーがドクター・シャーリーと旅をしている最中に妻ドロリス宛に送られてきた手紙が大元になっています。
ところが映画が完成し、公開されるとドクター・シャーリーの遺族より映画内容に対してネガティブなコメントが発表されてしまいます。
代表的なものではドクター・シャーリーの弟でモーリス・シャーリーは「二人は友人などではなく、雇用者と雇われ人乗関係でしかなかった。」と述べています。
また、遺族からのネガティブなコメントに対し、マハーシャラ・アリも、特に甥のエドウィン・シャーリーⅢに謝罪する形で、「ドクター・シャーリーを演じることについて最大限の努力をしたが、彼を知る遺族が存命であったことは知らなかった。知っていたら訪ねていって本当のドクター・シャーリーを演じるためのアドバイスをいただききたかった。」とコメントしました。
何かを暗示しているような…
ドクター・シャーリーの自宅はカーネギーホールの上にあり、内装は豪華な調度品がたくさんある、素晴らしい住まいでした。
その中にチェスのセットがありましたが、なぜか白のコマのみしかなく、黒のコマがなかったのに気が付かれたでしょうか?
何かを暗示しているようで意味深ですが、これについての映画関係者からのコメントは見つけられませんでした…。
撮影秘話とトリビア その3 トニーの息子ニックに関して
バレロンガ一家による映画
映画内に何度も出てくるバレロンガ一家が集うシーン。
あのシーンで家族メンバーとして出演している人々のほとんどが、トニーとドロリスの親類縁者です。
騒がしさは演技ではなくて、彼らの素の行動で、ニック・バレロンガの親類ルイス・ヴェーネレが、家族で食事をしているシーンの撮影中、監督からカットがかかっても目の前の料理を食べ続けたというハプニングエピソードをビゴ・モーテンセンが明かしていました。
ニックが企てた作戦
このバレロンガ一家を親類縁者で演じさせるアイデアはニック・バレロンガのものでした。
ところが、ニックはビゴ・モーテンセンに対してはピーター・ファレリー監督の決定だと信じ込ませ、監督には「ビゴが彼らを俳優として保証しているから」と言いくるめていたのです。
ビゴとピーターがおたがいに本当のことを知ったのは、撮影も終わり、プレスツアーを開始して1ヶ月が経ったあとのことでした。
徹底した結果…
制作と脚本を担当したニック・バレロンガはバレロンガ家の人々をほとんど、バレロンガ家の子孫に演じさせることに成功させましたが、それだけでなく、小物も実際に使用したものを撮影に使わせました。
彼の母親であるドロリスを演じたリンダ・カーデリニがしていたブレスレットや指輪は本当にドロリスの物を使ったのです。
ところがそのためもあってか、ニックは撮影の最中、かなりの回数、涙なしにはいられなかったとインタビューで答えています。
というのもビゴ・モーテンセンとリンダ・カーデリニが演じた彼の両親が、彼が覚えている両親そのものだったからだそうです。
特にリンダ・カーデリニに対しては、あまりの酷似にすべてを見ていられなかった、のだそうです。
撮影秘話とトリビア その4 その他のエピソード
トニー・リップ・バレロンガについて
トニー・リップことトニー・バレロンガはその後、俳優として映画やテレビに出演しています。
バーの用心棒時代にあの「ゴッドファーザー」シリーズの映画監督フランシス・フォード・コッポラと出会い、俳優デビューをしたのでした。
もちろん、イタリアマフィアの役が多く、ゴッドファーザーにも脇役として出演しています。
いちばん有名な出演作品はテレビドラマ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」です。
主人公が属するソプラノ・ファミリーと縄張りが隣接しているルパータッチ・ファミリー。そこのボス、カーマイン・ルパータッチ役を演じました。
旅の仲間
ドクター・シャーリーとトリオでコンサート旅行に同行したオレグとジョージですが、ピーター・ファレリー監督は演じる役者として本当に学期を演奏できるうえ、コメディーの経験がある俳優を探したそうです。
オレグ役のディメター・マリノフ、ジョージ役はマイク・ハットンに決まるのですが、ディメターは1度オーディションに不合格になってしまったそうです。
ディメターはバイオリンを15年、演奏してきたもののチェロは経験無し、というのがその理由です。
その後、ディメターはチェロの先生について5日間特訓を行い、再度オーディションにチャレンジしてオレグ役を射止めたのでした。
監督ピーター・ファレリーについて
監督のピーター・ファレリーはこれまでコメディーを25年撮り続けており、ドラマは初めてでした。
そのため、「グリーンブック」ではできるだけ笑いを狙うような場面を少なくしたかったそうです。
主演のビゴ・モーテンセンと助演のマハーシャラ・アリの演技のおかげでトニーとドクター・シャーリーの会話は、台本以上に現実味のあるものになったと、話しています。
映画撮影に関して
この映画は主にニューオリンズでロケが行われました。
もちろんニューヨークのシーンなど、ニューオリンズで撮影できない部分はニューヨークでも撮影を行っていますが、それはたったの一日で終えることができています。
映画の最後、ツアーを終えてクリスマスに間に合うように吹雪の中、ニューヨークへ急ぐシーンがありますが、あの吹雪のシーンはなんとニューオリンズで撮影されたのでした。
ルイジアナ州では珍しい雪が降った日、当初の撮影予定を延ばして上手く行けばそのまま吹雪のシーンを撮影しようとビゴ・モーテンセンが主張します。
普段ではありえないのですが、何故かその時は雪が止まずに積りだし、無事に吹雪のシーンの撮影を終了させることができました。
また、これによってミネソタで後日撮影予定だった吹雪のシーンを完全にキャンセルしたのです。
また、この映画ですが、冒頭に出演者などを紹介するオープニングクレジットや背景説明などを説明するインタータートルを全くせずに始まります。
これは、視聴者がそういったモノを見ないことで、「映画を見ている」ということを忘れさせてしまおうというビゴ・モーテンセンのアイデアから採用されたテクニックです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
いろいろと面白い裏話があったと思います。
楽しいのはビゴ・モーテンセンの奮闘ぶりではないでしょうか。
体重を増やすこともそうですし、イタリア訛りを身につけるのも、周りから見れば滑稽ですが、相当の努力をしていたことがわかります。
アカデミーの最優秀作品賞になったこともあり、ドクター・シャーリーの遺族がネガティブなコメントを出していることもあって、話題に尽きない映画になっています。
他にも内容を酷評する人もいますし、確かにトニーが黒人の救世主のような描かれ方になっているという指摘も理解出来ないではありません。
ボク個人としては、白人よりも差別される側の黒人のほうに諦めのようなものを感じて、そちらのほうが怖かったことが印象的でした。
そういった映画に関する感想は別の記事で紹介していますので、よろしければ御覧ください。
関連記事: 映画グリーンブックのネタバレと感想!実話をモデルにした話はノンフィクションか
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