ネタバレ感想 1 脚本の素晴らしさに驚かされる映画
第89回アカデミー賞脚本賞獲得をしたマンチェスター バイ ザ シー。
映画を見ていて思ったことはストーリーの見せ方が非常に上手く、観客の興味を常に引き
つけることに成功していたと思います。
最初に登場する主人公のリー、彼の性格からアパートの住民だけでなく、映画の視聴者さえも
もっと愛想よくフレンドリーになれないものか、と不満をいだいたと思います。
それが、過去のフラッシュバックで、家族とともに生活しているリーは今のリーからは
想像もできないくらいに、楽しく暮らしており、そのギャップに一体何があったのか?と
映画に引き込まれてしまいました。
兄であるジョーの突然の死にもあまり慌てふためかないことも、フラッシュバックによって
きちんと理由が明かされます。
常に、視聴者があれ?と思う小さな違和感というか疑問点を過去のフラッシュバックを
使うことによって納得のいくようにさせているのでした。
リーがあんなに変わってしまったのも、自分の不注意から最愛の子供3人を死なせてしまった
ことが理由だったことがわかり、同時に故郷を捨てた理由も故郷に帰ってきたがらない理由も
視聴者になんの疑問をもたせることなく納得させています。
これが、時系列的に初めから映画として見せられていたとしたら、これほどのインパクトは
なかったでしょう。
それどころか、映画としてあまりに暗い印象だけが最初から最後まで覆ってしまう事になり、
救われない思いになるのでは無いでしょうか。
最終的にリーは心に負った傷を乗り越えられることなく、また故郷を去らざるを得なく
なります。自分も子供を持つ父親として、同じような過ちで子供を亡くしてしまったと
したら、おそらく彼以上の抜け殻になってしまうのではないかと思わざるを得ません。
エンターテイメントとしての映画である以上、僕のテイストとしてはリーに傷を乗り越えて
元妻ランディが望んだように、正しを待つだけではない、新しい生活を始めるところで
映画が終わるような展開のほうが良かったのですが、リーが生まれ変わるためには、
よっぽどのイベントが無い限り、説得力にかけてしまうのでしょう。
そういう意味では、ある意味映画らしからないような、日常的な普通のエンディングで
あったことのほうが、このストーリーをきちんと締めることができたのかもしれない、
と思うのでした。
ネタバレ感想 2 ケイシー・アフレックとミッシェル・ウィリアムの演技に引き込まれました
マンチェスター バイ ザ シーは同じアカデミー賞で主演男優賞も獲得していますが、
ケイシー・アフリックの演技は見事に過去に傷のある男性を演じきっていると思います。
意地悪な見方をするならば、ケイシー・アフレックがリーのようなキャラクター以外を
演じた場合のイメージが今ひとつ浮かばないという個人的な印象があるので、素で演じて
いるのではないか、と思ってしまうほどでした。
喜怒哀楽を出さない表情もそうですし、大勢の中にいるシーンでも周りに交わらず、隅っこで
無表情に一人で佇んでいる彼は、その存在で何かを訴えかけていると感じました。
特に、フラッシュバックでリーの過去を知れば知るほど、今何を思っているかについて
より深く、考えを巡らせることができたように思えました。
同じく元妻のランディ役で出演していたミッシェル・ウィリアムの存在も良かったです。
総じて話に絡んでくるシーンは少なく、その分演技を見ることも限られていましたが、
リーと町で偶然に出くわし、謝罪をするシーンはまだ本当にリーを愛しているのだな、と。
つらい過去をなんとか断ち切って、新たに恋人を見つけ、彼との間に子供まで授かることが
できたランディですが、だからこそ、その過去から抜け出せず、抜け殻のようになって
しまっているリーのことを思わざるをえないのでしょう。
しかも、その過去の呪縛にリーが捉えられたままになってしまった原因の一部を自分が
作ってしまったことに気がついているから、なおさら罪の意識にさいなまれているのだと
思います。
もうちょっとランディのシーンを増やしてミッシェル・ウィリアムの演技をもっと見てみた
かったなぁ~と感じたのでした。
ネタバレ感想 3 アメリカの田舎町の雰囲気をキチンと見せてくれる映画
先の大統領選でトランプを大統領にお仕上げたのは、貧しい白人階級だと言われていますが、
このマンチェスター バイ ザ シーに登場する主な白人もまさにそういった階級に属する
人達だと言えると思います。
ニューヨークやLA、その他の有名な大都会の華やかさからは想像もつかない、鄙びた
田舎町。特に東北部にあたる海岸沿いの小さな町は、歴史ある建物も多く、それがまた、
雪の舞う冬だったりすると、余計物悲しい印象を与えてしまうのではないでしょうか。
町に住む人々はほとんどが全員知り合いというくらい狭い世界。それなりに仕事がある
ため若者も都会に出なくてはならない必要性もなく、地元に残れば、学校での友人と
そのまま付き合うことになります。
パトリックのように学生時代に彼女がいれば、ほぼそのまま結婚や同棲となるでしょう。
その後出産があり、全員ではないにせよ、離婚、シングルマザーというパターンができて
いると思うのは、ステレオタイプ的な見方でしょうか。
映画の中でリーも故郷に戻ってくると、とたんにこういった田舎のしがらみに取り
込まれて噂の種になってしまいます。それだけ、娯楽も少ないのでしょうが、こういった
性質もリーが過去から抜け出せない理由の一つになっているのではないかと思うのでした。
まとめ</h2>
全部映画を見てしまった後、話の流れを時系列的に思い返してみても、それほど特別な
ストーリーがあるわけでは無いことに気が付きます。
家族を持って幸せに暮らしていた男性が、自分の不注意から出火して子供達を死なせてしまい、
離婚。故郷を離れて都会で暮らしているものの、ただ生きているだけという生活をしている
毎日に、兄が突然死んでしまったため、故郷に戻ったら、甥の面倒を見れるのが自分しか
いなかったので、不本意ながら故郷で暮らし始める。ぎこちなかった甥との生活も慣れて
きたと感じつつも、やはり過去のことを忘れられずに、都会へ戻ることになる。
これが映画で語られるストーリーであり、こうして記してしまうとよくも平凡な
ストーリーを映画に仕上げたものだと、前にもいいましたが、感心すらしてしまいます。
映画によくありがちなご都合主義をつかった上で最後にハッピーエンドを迎えるという
ストーリーでなくても、心に響く素晴らしい映画にすることができるという模範作だと
おもいます。
個人的に、リーがこの後、ランディが望んでいたように自分の人生を生きられるように
なったのか、とても興味があるのでした。
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